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「バカなんだから……」
高梨さんがちょっとだけ。ほんのちょっとだけ嬉しそうに微笑み膝をついていた。そして、俺の方におもむろに手を伸ばしてくる。高梨さんの手に少しドキドキしていると、おでこにデコピンされた。それがたまたまなのが嫌がらせか、ちょうど俺が何かにぶつかったところで、痛くないはずがない。
「痛い‼」
「当たり前でしょ。そうなるようにやったんだから」
憎たらしい事を言っているがやっぱり嬉しかったのだろう。さっきより顔が明らかに微笑んでいた。
「小羽。誰よその子‼」
「ただの下僕です」
「下僕にしては妙になついているようだけど」
「下僕、下僕って失礼な! 俺には青木大介っていう立派な名前があります。それに先ほども名を名乗りました‼ なんなんですか? 高梨さんは嫌がっているのだから解放してあげてください!」
「それは無理なお願いね」
高梨さんの母親だった。彼女は妙に高梨さんに、執着している。そんな気がする。
「何故?」
その問いに高梨さんは妙に暗い顔をした。
「そんなの決まってる。この子は魔女なんだから。正確には、魔法使いと普通の人間のハーフだけどね。魔力はそこらの魔女より高いし、才能もある。だからよ」
「でも、高梨さんは……」
そこで俺の言葉が詰まった。確かに高梨さんは他の生徒と異なるオーラをまとっていた。いつも一人で本を読み、いつも誰ともはなさず、いつも。
だからってそれが特別な人がとる行動だと俺は思わない。
「才能なんてどうだっていい。高梨さんを……」
「もういい。大介。もう……。いいから」
高梨さんの言葉が、俺の動きを一瞬だが完全に停止させた。彼女は完全に諦めた表情を浮かべている。こんな肝心な時に高梨さんは俺の名前を呼んでくれた。
まるで、最後の別れのようでなんだか寂しくなる。
「高梨さん……」
「さぁ、早く帰りなさい‼」
高梨さんの髪が風もないのに宙を自由に浮く。そして、タンスの方に手を向ける。すると、誰も触れていないタンスの扉が開き、俺は扉の中に吸い寄せられていく。
「高梨さん‼」
しかし、高梨さんさんは俺の手をとることなく泣きながら俺を見送っていた。