母親
1
「離しなさい! 離して‼」
「そんな冷たい事言わないで。前は素直だったじゃない。ママのお願い。ね」
言葉とは裏腹な顔に背筋が凍りつく。自由のきく目だけを下に動かし気づかれないようにため息をついた。
ここは私の部屋。私の部屋といっても母親が私を閉じ込める為に用意したような部屋で扉には魔力よけなんて丁寧につけられている。これがあるために私はこの部屋の外には出られないのだ。部屋には最低限の設備が調えられてるとはいえ、同じ空間にいたくない。
「逃げて勝手な事をするなんていけない子。学校だってパパだって」
「お父さんの了承は得ています。それに、留学を進めてくれたのもお父さんです」
「あなたの力は神様が与えてくれた貴重なものなの。普通の人間に知られたらどんな……」
「お邪魔します」
クローゼットの中から下僕が現れた。
ーー
「えっと……。これはどうもお邪魔します」
俺は高梨さんの所へとたどり着いた。実のところ決心なんてできておらず、行き当たりばったりな行動だったわけだが、二人とも鳩が豆鉄砲をくらったような顔をしてこちらをみていた。
特に驚いた様子の高梨さんは俺の瞳を見つめている。
「どうしてこっちにきたの?」
「どうしてって嫌そうな顔してたし、助けてって。ヒーローは助けを求められたら助けるのが仕事だから」
「ヒーローじゃないじゃない!」
高梨さんの鋭いツッコミに怯む俺だが、彼女が嬉しそうに顔を綻ばせていたので助けに来たのは正解だったのだと、心から安堵する。
「貴方何者?」
「青木大介という……」
「私の下僕です」
高梨さんは俺の見せ場を完全に奪っていた。しかも下僕とは。嘘でも友達とか彼氏とかあるではないか。それを下僕って。
「ほら高梨さんこっち」
無理矢理引っ張ると、母親もすんなりと離してくれたらしく高梨さんを取り戻す事ができた。
「ほら、こっち!」
「うっうん」
何だか歯切れの悪い高梨さんだったが、俺の手だけはしっかり握っていてくれる。初めて好きになった女の子だと意識してしまう部分もあるが、今はそれどころではない。
「タンスの中を通れば直ぐ! 早く!」
タンスを目の前に彼女は足を止めた。今まで繋いでいた手も離され、ちょっと寂しい気持ちが膨らみ、何故と高梨さんに問いただしたくなる。しかし、それはあっさりと答えが帰ってきた。
「これ、私の魔力で繋がっているものだから」
俺のおでこは透明な壁にぶつかり、体はこを描き尻で着地した。