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迅雷のセルヴァー  作者: 木成和也
3/31

第弐話

△▼△


「やっぱり教えてもらえなかったよ」

「だよね。あの二人が授業以外で喋る所を見たことがない」

 翌日の昼休み、またしても成基と千花の二人は屋上に来ていた。今日は昨日とは異なってどんよりとした曇り空でそこまで暑くはない。風も強くて寧ろ涼しいぐらいだ。

 二人は屋上に置かれているベンチに座って昨日の話の続きをしていた。昨日転校してきた二人は全ての授業が終わるまで自分の席から動かず、口を開くことは一度たりともなかった。そのせいでクラスでは近寄りがたい存在となり、結局のところこれまで通りに二人が転校してこなかった時までと同じようになった。

 二人の存在はクラスで浮いていた。しかしその当の二人は何事もないかのように美紗は窓の外を見て、翔治は読書をして平然としていた。

「謎めいてるよなあの二人」

「うん。自分のことを明かそうとしないからね。何か隠し事をしてるような気がするし」

 実際クラスにそんな雰囲気が出ていて噂も少しばかり流れている。だから触らぬ神に祟りなし。近寄りにくい二人に自分から関わろうとする者はいない。関わろうとしたところでスルーされるだけだ。

 今日の休み時間も翔治との関係を美紗に訊こうとした。



「北条、お前って翔治とどういう関係なんだ?」

「…………」

「別に言いたくないなら言わなくていいけどさ」



 という風にいつものように外を見ながら無言を貫かれた。明らかに自分を隠そうとしていてあまり良い気がしない。

「あればかりはどうしようもないよな」

「そうだね。向こうが話してくれないんだから」

「もう放っておくしかないのかな?」

「判らない。でも私はあんまりそういうことをしたくないな」

「俺もかな」

 成基と千花は人を放っておくのが出来ない性分だ。だから決して無視しておくということは出来ない。

「しばらくは様子を見よう」

 それが今二人に出来る最善の方法だった。しかし正直なことを言ってしまえばそれは無意味かもしれないことも理解はしていた。


2


 放課後、雨が降りだして雷も鳴り出して、嵐になっていた。

 この日の放課後、成基は来月に行われる体育大会の準備でついさっきまで教室にいた。

 時刻は六時半。普段なら夕焼けが綺麗に見えている時間だが嵐のために薄暗い。時折光る雷が薄暗い廊下を白く照らし出す。雨が窓を打ち付ける音が雷と一緒に煩く聞こえる。

 その廊下を成基はゆっくりと歩いて階段に向かう。二階のこの場から階段を踊り場を一つ挟み二回下りる。

 階段は廊下の中央にあり、その階段を下りた先が昇降口だ。靴を履き替えて外に出たところで傘をさす。

 電車通学のため成基は田上駅まで歩かなければならない。

 この強い雷雨の中で傘を開いていにも関わらず成基はびしょ濡れになりながらも駅に着いた。しかしそこで成基を待ち受けていた現実は逃避のしようがない酷なものだった。

『大雨のため現在運転を見合わせております』

 この張り紙の示す意味、それは「成基は帰れない」ということ。

 一人暮らしをしている成基に早く帰らなければならない理由などない。ただそうなるとあまり無駄遣いすることが出来ない金銭で外食をしなければいけないことで気が進まなかった。

 成基は一人暮らしでバイトもせずにどうやって金銭を遣り繰りしてるかと言うと父が遺していた遺産があった。その額なんと数十万。この遺産は父が亡くなった日に病院から帰ろうとしたら看護師に呼び止められ、手渡された遺書に遺産の在りか綴られていた。

 帰宅後、遺書に書かれていた通りに父が使っていた金庫の中に数十万の万札が入っていた。

 中学生である成基は流石にそんなとんでもない大金を持てないために今も自宅の金庫に保管してあるが、それでも少なくとも卒業までは保つが、それ以上にも貯めておかなければならないため無駄遣いをすることは出来ない。

 成基は駅の売店でお茶と弁当を買うと駅のホームのベンチに座って食べ始めた。

 この雨ではしばらく運転が再開しそうにない。最悪このまま駅で夜を明かしてそのまま学校に行くこともあり得る。

 駅の構内には俺の他にも電車通学の僅かな生徒が運転再開になるのを待っている。

 ここまで待つことになるのであれば歩いて帰った方が早いのだが、成基の家は電車だと二駅でそこから十五分歩き。つまり田上駅から歩いて帰ろうとすると一時間半はかかるのだ。この嵐の中をそんな時間かけて歩くぐらいなら帰りが遅くなっても電車を待った方がいい。

「はぁ」

 帰れることもなく、待っている間にすることもなく、どうやって時間を潰そうかと考えていると眠くなってきた。どうせしばらくはこのままなのだろうからとそのまま身体を眠気に委ねることにした。



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