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迅雷のセルヴァー  作者: 木成和也
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第十六話

 《空中(そら)》と呼ぶより、普通の《空》と呼ぶべき高さまで上昇するとそこに翔治が止まっていた。

 成基はそれにつられて翔治の後ろで止まり視線の先を追う。その先にいたのはよりによって明香だった。

「沼隈明香…………」

「ほぅ? 新米のわりにはアタイの名前を知ってるのか」

 成基の小さな呟きを危機逃さずに明香が意外そうな口ぶりをした。

「どうする翔治? このまま殺り合うか?」

「それより前に聞きたいことがある。どうやって爆弾みたいな物を造った!」

 翔治が声を荒げた。一方の明香は興味深そうに答える。

「お前はあれが爆弾だと思ったのか? 面白い。だがそんなもの我々にも造れまい」

「ならばなんだ? 爆弾以外にあれだけの威力を持つものなど…………」

「お前なら分かるだろ? お前もセルヴァーなら」

「まさか…………《希望の一撃レゾリューション・ブロウ》!?」

 翔治が目を見開いて、まさかと言うように訊く。

「フッ」

 明香は鼻で笑っただけだがそれは肯定の意味だろう。

「《希望の一撃レゾリューション・ブロウ》…………?」

 だが成基は《希望の一撃レゾリューション・ブロウ》などという聞いたことのない単語が出てきて何のことだか全く解らない。

「《希望の一撃レゾリューション・ブロウ》は自分の中の意志が限界まで達した時に発動する必殺技のようなもの」

 成基の疑問に一番最後に翔治を追ってきた美紗がいつの間にか傍に来て答えた。

「じゃあ何でその《希望の一撃レゾリューション・ブロウ》ってやつは誰も使わないんだ?」

「使わないんじゃない。使えないの。《希望の一撃レゾリューション・ブロウ》はさっきも言ったけど意志が限界まで達しないといけない。それだけで難しいのに意識に少しでも雑念が入らないようにするとてつもない集中力が必要なの」

 普段から無口な美紗が珍しく長々しく説明をしている。意外に思いながら続きを聞く。

「だから光のセルヴァーには使える人はいない。そして闇のセルヴァーにもいない、そう、思ってた…………けど………………もし、本当に《希望の一撃レゾリューション・ブロウ》が使えるのなら…………」

「成す術がない、か…………」

 だとしたら成基達は危うい。対応のしようがない攻撃をされれば全員が殺られるまでそう時間はかからないはずだ。それに明香一人ならまだしも…………。

「今ここに来ているのはお前だけじゃないだろ?」

 ここに来ているのは明香はだけじゃないはず。一人だけでも厄介な存在なのにさらに他のセルヴァーまでいると俄然不利だ。

「アタイ一人でくるはずないだろ」

 予想通りの答えがした後すぐに四人のセルヴァーが明香の背後の闇から現れた。

「さぁそろそろ答えを聞かせてもらおうか」

 戦闘を開始するかどうかを問われた翔治は遥か下の白銀学園を見た。グラウンドではまだ逃げ惑う人々や避難しきれてい人達がたくさんいる。

「解った。受けてたとう」

「威勢はいいがもう怪我の影響はないのか?」

 邪悪な笑みを浮かべながら翔治を馬鹿にするように訊いた。

「ふっ、当然だ」

 翔治も負けじと言い返す。

「とりあえず戦闘中に少しずつ学校から離れる。いいな?」

 正面にいる闇のセルヴァーを見ながら明香達には聞こえない程度に翔治が仲間に伝える。

 それに全員でタイミングを合わせたかのように同時に頷く。

「明香は俺がどうにかする。他を頼む!」

 それだけを言い残すと翔治は明香に斬りかかろうとした。

「ちょっと待てよ」

 だがそれを翔治の一番近くにいた成基と美紗が翔治の腕を掴んで制止する。

「お前は前に一回やられてるんだから俺達に任せろよ。一人で気負いすぎだろ」

「私達も戦える」

 二人が口を揃えて言うと翔治が何か言い返そうとした。しかしそれよりも先に修平が口を挟んだ。

「だってさ翔治。ここは素直に代わっておけば?」

「そうよ。たまには楽しなさいよ」

「だな」

 修平の後、立て続けに芽生と是夢からも言われた翔治は何も言い返せなくなった。

「ああ、解った」

 ようやく翔治は承認して闇のセルヴァー達を見据えた。

「じゃあ俺が侑摩だな。行くぞ!」

 遂に戦闘が開始された。今回の戦闘目的は闇のセルヴァーを倒すことではない。今はとにかく白銀学園にいる人達に被害が及ばないように《防衛》することが最優先事項だ。

 そのことを心得て成基は少し離れ、美紗は挨拶代わりと言いたげに明香に斬りかかる。

 明香はそれを余裕の笑みを浮かべながら悠々と弾く。

「《希望の一撃レゾリューション・ブロウ》の使えるアタイが負けるわけないさ!」

 声を張り上げる明香に対して、そのことを心のどこかで察しているのか、美紗は無言で何一つ表情を変えずに少しずつ白銀学園から離れるように誘導しながら剣を振る。

 そのやり取りを遠目で見ながら成基は二人から離れたところで狙撃出来るチャンスを待っていた。

 二週間前の戦闘以来、毎日のようなペースで芽生に空中(そら)から小さな的を射抜くという無理難題をさせられ、成基はそれをほんの二日前にやってのけた。

 しかし、まだ必ずしも当たるとまではいかない。二日前に当たったのは単なる偶然でそれ以来は一度も射抜けていない。

 あくまでもそれは動きながらの話だ。今は止まって明香を狙っている。止まっている状態ならば成基は自信があった。

 美紗と明香は激しい攻防を繰り広げている。だがそれは一見するとだ。よく見ると、明らかに明香の方が圧している。美紗攻撃は楽に防がれているし、逆に明香の攻撃は美紗も同じように防いでいるもののギリギリだ。

 いつやられてもおかしくない状況ながらも堪えている美紗を援護すべく、成基は気付かれないように出来るだけ遠くから敵のリーダーである明香を狙い射つ。

 宙に放たれた矢は晴れ渡った昼間にも関わらずはっきりと煌めきながら明香の背に向かって一直線に飛んでいく。

 音を立てずに接近する矢に美紗がいち早く気付き、矢の射線上から退く。

 それから僅かな間をおいて明香の背に刺さった。…………と思った。

 しかし、実際に射抜いた明香の姿が消えた。

「えっ…………?」

 周囲を見回しても明香の影はない。一体何だったのか判らず、成基は少し呆然とした。

「…………上!」

 という美紗の声と、成基が射抜いたのは残像だと気付いたのはほぼ同時だった。

 慌てて上を見上げるがもうすでに遅かった。

 直後、明香が迫り成基に鋭く剣を振った。

 このままでは斬られる。成基はそう思ったが、無意識のうちに弓を出していた。

「くっ…………!」

 そのお陰で奇跡的に致命傷を避けたが、左肩を軽く抉られ成基は真下へ落とされた。



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