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迅雷のセルヴァー  作者: 木成和也
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第九話

 美紗に引っ張られる途中、美少女に手を引かれていることを意識してしまい、顔を赤く染めていた成基は何件かある廃屋の広い土地の中で一番目立たなそうな建物の影に来ると、そこでようやく解放されて半分残念に思いつつ文句を言った。

「何だよいきなり」

「静かに。今は作戦を説明する」

 音で侑摩が追って来ていることが判ったために成基は素直に目の前の美少女の言うことを聞く。

「あなたはまだ飛行が完璧ではない。だから出来るだけ地上戦をする。もう一度気づかれないように回り込んで」

「わかった」

 少しずつ足音が近づいてきた。もう見つかるのも時間の問題だろう。

「私が出て注意を逸らすからその間に移動して。あなたなら出来る」

 それだけ言うと目の前の美少女は侑摩の前に出ていった。

「ようやく出てきたかい。あれ? あの弓使いがいないけど…………ま、いっか。じゃあ行くよ!」

 戦闘が始まり、鍔迫り合いになったところで成基はそっとその場を動いた。

 そのまま隣の建物の影に入って美紗の指示通り侑磨の背後に回り込んだ。タイミングを窺いながら様子を見る。

「なかなかやるね美紗ちゃん」

「そっちこそ」

 互いを称えながら見つめ合い同時に一気に距離を詰めた。

 その二人が激突する直前に美紗が飛行能力を使ってその場で勢いを止めて右へ旋回して斬りかかる。

 振った剣が空を切った侑摩はその体の流れに身を任せて二百七十度回転して迫り来る剣を迎え撃つ。すると次は侑摩が美紗を飛び越えて振り向きざまに美紗の空いている背中へ剣を振る。

 それを美紗は振り返らずに剣だけを背中に配置して弾く。

 そんな二人の実力を感嘆しながら成基は見ていた。こんなことは絶対に出来ないだろうなと彼は素直に思った。

 しかしこれでは侑摩を狙えない。

 正直これは明香と翔治よりも強いのではないだろうか。

 一向に動きが止まる気配はない。掛け声もなく無言で繰り広げられる戦闘だが、それを気づかせないほど剣と剣のぶつかり合う音が休むことなく激しく暗い廃屋に響く。

 もうこうなれば一瞬の隙をつくしかない。

 そう判断した成基は弓を構えていつでも矢を射れるようにし、必ず訪れるはずの刹那のタイミングを狙う。

 だが彼の予想以上に美紗たちの戦闘は壮絶だった。侑摩は疲れることを知らないのかまだ止まってくれそうにはない。

 そうなれば逆に厳しくなってくるのは成基の方だ。彼の体力は無限ではない。弓を引くだけでも相当な腕力を使うのにそれを長時間継続すると限界が来る。

 かといって休むことも出来ない。二人の戦闘の様子からすると一度チャンスを逃すともう暫く好機は巡って来ないだろう。

 少し危険ではあったが成基の腕が限界に達する前に止まるその可能性に賭けるしかなかった。

 三十秒、一分、一分半と経過し、二分に近づき、僅かに成基の表情が歪み始めた頃、絶好のチャンスが訪れた。

 限界が近づいてきたその時、二人が少し相手の出方を窺うようにして止まった。しかも侑摩は成基に対して背を向けている。

 この機会を逃すまいと言わんばかりに成基は矢を射った。

 成基の放った一筋の光は闇を切り裂き侑磨に直進した。

 しかし、

「甘いな」

 その呟きと同時に侑摩は顔だけ振り返り、右手を出して障壁を張って成基の放った矢を打ち落とした。

「そんなもので僕が倒せると思ってるのかい? 君が隠れて狙ってたのは始めから判ってたよ。二度も同じことは通用しない」

 成基の隠れている場所を真っ直ぐに見つめながら姿の見えない成基に侑摩は言った。

「くそっ! 見つかってるのかよ!」

 そう成基は吐き捨てて場所を変えようとした。

 その時だった。

 何かが落ちてくる(・・・・・)

「翔治!」

 この場いっぱいに美紗の絶望的な悲鳴にも似た叫び声が響き渡った。



「やはりまだまだね」

 ボロボロになって所々血も流れ出している翔治を見下して明香は言った。

「まだ、だ………………」

「ほう? 根性だけはあるようだが……どうせこれからお前を殺すんだ。実力がなければ防げない!」

「そんなもの…………ぐはっ!」

 明香は肩で息をして何とか声を絞り出しているの翔治に電光石火の動きで接近すると、腹に剣の柄を思い切り食い込ませた。

 翔治の口からは呻き声と血塊が吐き出されてそのまま地上へと落下する。

「翔治!」

 地上から聞こえる美紗の叫びを耳にしながら翔治は意識を失なった。

 地上に落下してくる翔治を見つけた美紗は目の前にいる敵をそっちのけで飛び立ち、空中でしっかりと抱き抱える。

 それに真っ先に反応したのが成基だ。侑磨がこの間に追撃してくる可能性もあったがどうやらそれはしてこないようだ。

「翔治! 翔治! しっかりして!」

 美紗が必死に呼び掛けるが気を失っている翔治から返事はない。

「翔治……うそ…………うそっ!」

 涙を流しながら美紗は叫ぶ。

「落ち着けよ北条! そいつはそんなに簡単にくたばるやつじゃないだろ!」

 そんな彼女に成基は怒鳴る。

 周囲からは戦っていた残りの光側のメンバーが全員集まってくる。

「とにかく今は翔治を運ぼう。一時撤退しないとこいつが危ない」

 成基のその意見に反対する者はいなかった。

 もう闇のセルヴァーの存在など忘れてただひたすらに翔治を運んだ。


「明香姉、あのまま放っておいていいのかい?」

 美紗と戦っていた侑摩が疑問を投げ掛ける。

「心配は無用だよ。あれだけの怪我をすればすぐに戦線には復帰できない。光の側は戦力が落ちる。そんなに不安なら保険をかけおけばいい」

 侑摩はそれには答えず実行した。何が小さい物を投げた。


 

「痛っ」

 成基は不意に右腕に痛みを感じた。

「どうしたんだい?」

 修平が止まって小首を傾げた。

「何か右腕に痛みが走ったんだが……」

 痛みのした部分を見てみるがそこには何も確認することが出来なかった。

「何もないな……」

「大丈夫かい?」

 不安そうに修平が訊くが、成基は全然大丈夫だというように笑って答えた。

「ああ。痛みもそれほど大したものでもないしな」

「そうかい? ならいいけど」

 二人は一刻を争う常態の翔治を連れて、急いでどこかへ運んでいる美紗に追い付いた。

 だがこの時、成基は見落としていた。腕に針が刺さっていることを。その針は成基が動き出した時の微動で一瞬煌めいた。

 そんなことを成基は知らない。


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