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蛍と鷹  作者: 駿河留守
6/21

青春

言われるままに矢々島先輩の後をテクテクとついて行く。女子更衣室で女の子同士なのに妙な緊張感に襲われながら私は彗星のごとく着替える。汗ふきシートで汗を拭いても体中に残る汗のべたつきはとることはできない。早く帰ってシャワーを浴びたい気分であったが先輩の誘いを断るわけにはいかずこうしてつい行っている。先輩の後姿を見るとスポーツマンという感じではない。そもそも、私はこの人が生徒会長でテニス部員であること以外何も知らない。知らない人と長時間いるのは苦手であるが相手が紛れもない年上であることは分かっていることなのでいつもの自然と出る軽蔑するような表情は出ないだろう。


「そういえば、蛍ちゃんは学校までどうやって来てる?」

「え?え、えっと、徒歩です」

「家はどの辺?」


私の住むシェアハウスはここから歩いて10分ほどのところである。近くも無く遠くもない。


「そっか。お家の人は遅くなっても何も言わない?」


何も言わないも何も基本的に個人の自由を象徴しているあのシェアハウスに特定の帰宅時間等は存在しない。たまに帰ってこない人もいるし。その辺に関しては。


「だ・・・・・大丈夫・・・・・・です」

「そんなに緊張しないの!」


そういって軽く背中を叩かれる。

矢々島先輩は見た目通り親しみやすい人だ。孤独で皮肉れた私にも接してきてくれる。明るくて私には直視できない。


「でも、そうか。徒歩なんだ。歩いていくにはちょっと遠いな」

「あの・・・・・わ、私これからどこに行くかまったくわからないんですけど」

「まぁ、行けば分かるよ」


そういうと矢々島先輩は再び歩き出す。その後ろを慌てて追いかける。向かった先は自転車置き場だった。先輩はポケットから鈴付きのカギを取り出して自転車の鍵を外して手荷物を籠の中に放り込んで自転車を引っ張り出す。


「じゃあ、乗って」


荷台をバンバンと二度叩いてここに座れと言ってくる。


「あの二人乗りは・・・・・・」

「ああ、確かにこんな人目の多いところだとね」


そうですよ。恥ずかしいですよ。こんな人目の多い場所で女の子二人が寄り添って。私が先輩に抱きついて自転車に乗っていたら絶対に変な勘違いをされる。そう考えると胸の鼓動が止まらず速くなる。


「二人乗りは禁止だったよね」


私の気にしている部分は全く気にしていないようだ。


「とくかく、学校を出よう。蛍ちゃん」


うう、何度呼ばれてもその蛍ちゃんはドキッとする。

私と先輩はふたりで並んで校門を出る。私は校門を出てすぐ右に回り大きな通りには出ないで住宅地の方に向かのだが先輩は左に曲がり大通りの方に向かって行く。どこに行くかは全く分からないのでとにかく先輩の後をついて行く。しばらく歩いて大通りに出る。周りに生徒の姿も先生の姿も確認できない。


「この辺ならいいかな?さ、乗って」

「で、でも」


乗り方も知らないし、そもそも危ないのではないかといろいろ不安が溢れる。でも、その不安はただのいい訳であって本当はこの矢々島先輩の背中にぴったりくっついてしまったら、私の心臓が飛び出すのではないというくらい動悸が激しくなってしまって気絶してしまいそうだ。今でもはじけそうなのに・・・・・・。


「乗り方分からないのかな?」


先輩は自転車を両足スタンドで止めて私の腰を掴んで持ち上げる。


「わぁ!」

「おお軽い!羨ましいね~」


そういうと先輩は私を自転車の荷台の上で下す。バランスを崩して倒れそうになるところを先輩に補助されて何とか自転車の荷台に座ることが出来た。


「蛍ちゃんは相当運動できないみたいだね」

「・・・・・返す言葉がありません」


しょんぼり。


「じゃあ、行きますか!」


先輩が勢いよく自転車にまたがるとそのまま自転車を立てていたスタンドが動いてタイヤが地について大きくバウンドする。そのせいで自転車から落ちそうになるのを必死に先輩にしがみつく。ごく自然に。


「せ、先輩!怖いです!」


素直な気持ち。


「すぐに慣れるよ!」


慣れないですって!お尻が半分くらい落ちている気がする!感覚がないよ!


「スピードアーップ!」


先輩がその足でペダルをこいでぐんぐんスピードが上がっていく。それが怖くて目をつぶって先輩に抱きつくことをあれだけ拒否していた私は自分の安全のために必死に先輩にしがみつく。頬や胸から先輩の背中の体温を感じる。温かくて気持ちいいものだった。そして、先輩に密着していない肌から心地よい風が吹きあたり気持ちよかった。勇気を持って目を開けると目の前には先輩の後姿。周りを見渡せば自分の力では進んでいない乗り物に乗って風を感じることに心地よさを感じた。


「気持ちいい」


すると先輩は後方の私に笑みを向けて大きくペダルをこぐ。


「これが青春だー!」

「はい!」


初めてあの事件以来楽しいと思った。

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