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蛍と鷹  作者: 駿河留守
3/21

ただいま

すっかりあたりは暗くなってしまった。こんな遅い時間に帰るのはシェアハウスに住んで以来初めてかもしれない。あのシェアハウスに住んでいる人でほぼ毎日しっかり帰ってきているのは私とひよこさんと三根さんくらいだ。夕食を食べるのも基本的その3人になることが多い。今日はその夕食を食べることなく久々に外食をしてしまった。わつぁいの意思でしたものだから別に何も後悔とかはないけど、でも、行くべきじゃなかったとずっとこの暗い夜道を歩きながら思う。


「あれ?蛍子?」


名前を呼ばれて振り返るとジーパンにジャケットという安易な私服姿に大きなボストンバックを肩にかけた藤見さんが後ろから小走りで私の元にやって来た。

私のことを蛍子と呼ぶのはシェアハウスに住む女性陣と藤見さん、後は家族くらいだ。シェアハウスの女性陣は親睦を深めるためにお互いに下の名前で呼び合っている。最初は八坂さんを豊香さん、喜海嶋さんを芳美さんと呼ぶのに抵抗があった。今はそんなに抵抗はない。でも、こうして私と浸しい人と区別がつけやすい。あ、でも、今日それ以外の人に初めて呼ばれた。


「こんな時間にひとりとか珍しいな」

「う、うん。ちょっと、寄り道を」

「それも珍しいな。もう、怖くないのか?」

「はい。もう、だいぶ平気になりました」


私にはあるトラウマがある。それの影響のせいで今は実家ではなくこうして多くの他人と共にシェアハウスに住んでいる。


「どこに寄り道したんだ?」


シェアハウスまでは10分ほど時間がある。気まずい空気にならないように藤見さんが話題を振って来てくれた。藤見さんはいつもシェアハウスの中でもまとめ役とかを自然と受け持ってくれる頼れるお兄さんなのだ。きっと、私の話も最適な対応をしてくれるはず。


「あ、新しいクラスの子と・・・・・・カラオケに」

「おお、蛍子が友達と」


驚いているのも無理はない。友達と遊ぶことはシェアハウスに来て一度もないのだ。


「前にカラオケに行ったときはひとりだけぎこちなかったもんな」

「それはもう忘れてください」


ああ、恥ずかしい。なんでもっと自然な対応が出来なかったのよ。

自分を責める。


「でも、今日は2回目だろ。歌えるような曲も探し出すことも前回にできたし、今回はスムーズに歌えたのか?」

「そ・・・・・それは・・・・・・」


なかなか切り出せない理由がある。それをすぐに察した藤見さんはそれ以上カラオケの話題を振ってくることはなかった。その優しさに涙腺が緩むけどそれを必死にこらえて平常心を保つ。

確かに私は新しいクラスの人とカラオケに行った。でも、またいつもの癖が出てきてしまった。みんな年下であるということを無意識に思ってしまいため口で話されたり、私の意見を聞かなかったり、それだけで私自身が不機嫌になったり、気付けば私はカラオケボックスの片隅で料理をひとり摘んでいる状態になっていた。歌の順番は私の元に回ってくることなく、ただ苦しい時間を過ごしただけだった。

あれだけ私にかまってきた一二三さんもみんなの輪の中心にいて楽しそうにマイクを握って歌を歌い続けていた。私にはその間に入ることは到底できなかった。

明日から私はどんな顔をして学校に行けばいいのか分からない。カラオケに行ったメンバーとは誰とも携帯の番号を交換していない。結局、中学の時と何も変わらない学校生活を送ることになるんだろう。

住宅地の真ん中にある見た目に大きな特徴はないけれど私の目にはどこよりも明るく暖かく感じて帰って来たと安心する。そして、帰って来たときの第一声はいつもこれ。


「ただいま」

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