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蛍と鷹  作者: 駿河留守
2/21

出会い

「在校生代表祝辞」


長い長い校長の話が終わった直後に行われるのは在校生祝辞だ。あらかじめ用意してきた文章を私たちに向かって読み上げるという単純な作業だ。果たしてそんなものは必要なのかどうか疑問さえも感じる。


「在校生代表。生徒会長、矢々島鷹音」

「はい」


司会の先生に名前を呼ばれると体育館の隅から返事をする声が聞こえて全員がそちらに目を向ける。清楚な声でありながらもどこか透き通り響く声だった。壇上に上がって来たのはすらっとした細い健康的な体に邪魔にならない程度のバッサリと切られたセミロングの茶髪に健康的に焼けた肌でも艶や染みは見当たらない。ほんわか黒い肌とは裏腹にまるで何も薄汚いこの世の定めを全く見たことのないような淡く輝く宝石のような藍色の瞳を持った女子生徒。誰もが見とれるそんなオーラを醸し出した生徒会長が祝辞を述べる。

その内容は何も覚えていない。私は見とれてしまった。初めて人に見とれてしまった。誰が見て輝いて見える。誰もが憧れる存在。その姿を見て私は全身がまるでサウナに入っているかのように汗ばんだ。緊張した。

矢々島先輩は祝辞が書いてある紙に少しばかり目を落とすと私を含む新入生全員を見渡すように祝辞を語る。その際に私は先輩と一瞬だけ目が合った。向こうは絶対に気付いていない。でも見られて目が合った。

私の中で知らない熱い気持ちがこみ上げてくる。

祝辞が終わってステージから降りる姿も私はじっとその姿を追った。体育館隅にある自分の席に座ってしまったせいで姿が見えなくなってしまった。目線は再びステージに戻っても私の頭の中には矢々島先輩の顔だけが浮かんでいた。この過剰なまでの特定の人へのことばかり考えてしまう異常。しかも、さっき会ったばかりの人だ。私はおかしい。絶対におかしい。

そう言い聞かせながら興奮状態の体を必死に抑える。

それからのことはよく覚えていない。

入学式が終わって教室に案内されてHRが終わって帰宅という方になった。

そのHRが終わってようやく私は意識が現実に戻ってきた。

みんな楽しそうにメアドとかを交換したりしている。私はここに来るまでに誰と話したか何も覚えていない。ようやく、変な熱が冷めて落ち着いたので早く帰ることにしよう。調子がきっと悪いんだ。家に変えれば少しくらいは楽になる。

ほぼ空っぽのバックを持って席を立とうとして帰ろうとすると私の目の前に誰かが立ちふさがった。

髪を若干金色に占めて頬にうっすらと化粧をして唇も私のような普通の人間とは程遠いピンク色をしており口紅をしているのが分かる。ほのかに花の香りがしているから香水でもしているのだろう。髪はおそらくヘアアイロンで巻いたのだろう、ゆるふわなツンテールの一見かわいげのある女の子が私の目の前に立つ。


「君。かわいいね」


突然何を言い出すかと思いきや、訳の分からないことを・・・・・・・え?かわいい?

中学の事件以来少し地味さを追求していたのだがそれでも私ってまだかわいい属性なの?よく分からない。

栗色の髪の毛先をいじりながら目線を合わせないようにお礼を言う。


「えっと・・・・・・その・・・・・・ありがとう」


でも、いきなり初対面の人にかわいいねってズボンを短足に見えるくらい下げて、いろんな金属類を吊り下げて、耳やら鼻に穴をあけてピアスをつけているようなチャラ男が使うナンパ方法じゃないの?


「えっと・・・・・うちの斜め後ろだから・・・・・・」


担任に配られた座席表の名簿を見ながら私の名前を確認するが。


「えっと・・・・・・キナツミヤさん?」

「誰よそれ?」


私の名前を間違えてあたふたする女の子。

まぁ、私の上の名前をパッと見てすぐに名前が出てくる方が素晴らしいと思うわよ。たぶん、榎宮の榎を木と夏を別々に呼んだけね。分かってるそのくらい年下の子に教えるくらいの権利は私のようなお姉さんにはあるのよ。


榎宮(えのみや)って読むの」

「へ、へぇ~、そうなんだ。うちってバカだからこんな難しい漢字読めないよ」


年上にため口。2点減点。


「それに比べてうちは簡単で覚えやすよ」

「そう。よかったら教えて」


誰一人名前を把握していない。


「うちは一二三(ひふみ)っていうの。漢字の一と二と三で一二三。一二三夜見(ひふみよみ)よろしくね」


そっちの方が私の何倍も読み読みにくいわよ。知らない子がいきなり一二三って見せられて読める子なんていないでしょ。確かに漢字は簡単かもしれないけど。


「えっと、私は榎宮蛍子(えのみやほたるこ)よ」


名前の方の突っ込みを心の中で終わらせて一応名乗られたので私も常識人として名前を名乗る。


「蛍子ちゃんか。かわいいね、蛍って」


一つ年下の子にそんなことを言われるってなんか気分が悪い。


「でさ、蛍子ちゃん!」


まだ、何かあるの?


「これからクラスの子を何人か連れてカラオケ行こうと思うんだけど、どう?」

「カラオケ?」

「うん」


なんとも無邪気に笑う子なんだろう。誰にでもこんな表情を作ることが出来るすごい子だなって私は思う。私にこんなことはできない。元々、笑顔を作ること自体が苦手。とくに作り笑い。通学の卒業アルバムに張る写真を撮影する時も「はい!笑って!」と言われてもうまく笑えず若干引きずった顔になってしまった。もう、あんなあのアルバムは一生封印だ。

とにかく今はカラオケか・・・・・・。

以前、今のシェアハウスのメンバー全員で行ったことがあった。カラオケに行くこと自体が初めて何を歌っていいか分からなくて豊香さんや芳美さんに手助けされてなんとな楽しめたのだが今回はうまくいくのだろうか?

でも、少しくらいは友好関係を作らないといけない。みんなと同じ同調する必要がある。そのためにもこれはひとつの試練かもしれない。


「うん・・・・・・行く」

「本当!ヤッホー!みんなメンバーがひとり増えたよ!」


まるで小学生のように報告しに行った。その先にはすでに10名程度の人がいた。あの人数なら歌が回ってくる順番も遅いから大丈夫だろう。


「早く行こうよ!蛍子ちゃん!」


軽くため息をついて一二三さんのところに向かう。

ようやく、これでみんなと同じ領域に入れたのかな?そう考えながら人の輪に入って行く。みんな年下。そんなみんなとは一足先に大人になっている感覚を一生懸命消し押さえながら交流する。その間にため息や嫌な表情を何度かしてしまったのは私は気付いていない。

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