過去と謝罪
深呼吸を1回、2回、3回する。パンと軽く頬を叩いて気合を入れる。その後、鏡の前で髪が乱れていないか服装が乱れていないかを確認する。
「異常なし」
すべての準備が整ったら私は自室から出る。シェアハウスにいるのは仕事が無いニートの三根さんと午前中は大学の講義のない豊香さんだけ。他の人たちはそれぞれの職場に出かけてしまっていない。
いつもと変わらないシェアハウスの風景。それが私の心を落ち着かせてくれる。今日、せっかく出来た親友をひとり失うかもしれない。このまま黙っている方法もある。そうすれば、いつまでも鷹音先輩との関係を壊さないで行ける。でも、私は鷹音先輩が好きだ。そんな先輩に恥をかかせたままにしておくというのが私の中では許しがたいことだ。あの人が学校を一日ノーパンで過ごしたことは一生の記憶に残り誰にも知られたくない黒歴史にしてしまった。私はそれを謝りたい。それで鷹音先輩が起こって学校中に私がパンツを盗んだことを広められたとしてもそれは中学の時と状況が同じになるだけで慣れている。それに私にはこのシェアハウスがある。
「だから、逃げるな。蛍子」
そう自分に言い聞かせて学校に向かう。
授業の内容は全く頭に入ってこなかった。どう鷹音先輩にパンツを返せばいいのかずっと考えていた。嫌われてもいいと思っていてもせっかくの鷹音先輩の関係をどうしても壊したくないという自分もいるわけだ。どうすれば、鷹音先輩の関係を壊さずにパンツを返せるか考える。結論から言って盗んだパンツを持っている時点で無理だと昨日の夜から換算して10時間以上考えた結果だ。
我ながらバカなことを考えているなと思った。
帰りのHRが終わり部活となる。
「よし」
決意を新たにして机の中の教科書類をバックの中に入れてラケットを持ち教室から出る。
「蛍子ちゃん」
名前を呼ばれて振り返るとそこには一二三さんがいた。
「部活に行くの?」
無言でうなずく。
「大丈夫なの?昨日、すごく顔色悪かったけど」
心配そうに私に話しかける。
私は軽く笑顔で答える。
「もう、大丈夫。心配してくれてありがとう」
これで一二三さんとの絡みも最後かもしれない。
私は最悪テニス部を辞めることも視野に入れている。部活の強制期間は9月まで今は7月とまだ学校指定の期間にはまだまだ早い。でも、これ以上私は鷹音先輩には会えない。会わないためにもテニス部を辞める必要がある。
結構楽しかったのにな。テニス。
どこか個人的にできるようなところを探して続けることにしよう。あのオートテニスができるところにも足を運んで練習しよう。
テニスコートにはすでに先輩方がアップをしたり雑談したりと各々好きなように準備を進めている。まだ、仕切り役の部長が来ていないせいだろう。
「蛍ちゃん」
その名前を呼ばれて私の緊張が一気に高まる。それはいつも緊張感じゃない。
「た、鷹音先輩」
ガクガクと振り返ると短パンに半袖の体操服姿の鷹音先輩がいつものようにいた。
「昨日はどうしたの?一二三さんから聞いたけど体調が悪そうだったって。もう部活に来ていいの?」
「は、はい。おかげさまで」
バックの奥底にしまってある。紙袋の中。その中に私の罪の物的証拠がしまってある。さすがにパンツをそのまま渡す勇気はなく、紙袋に入れてごまかしている。飾り気のない茶色の紙袋。これでプレゼントとかと間違われることもない。あまり引きずるのも嫌だ。一度行くのを拒めば私一生この紙袋を鷹音先輩に渡せない。
「た、鷹音先輩」
「ん?どうしたの?顔を真っ赤にして?」
「お、お話があります。ふたりっきりになれませんか?」
不思議そうな顔をしていた鷹音先輩だったがしばらく間をおいて頷いてくれた。
私たちはそのまま校舎裏に向かう。私がパンツを盗んで窓から脱出したところだ。日が当たらずジメジメと湿気こもりやすいこの場所は少し空気がひんやりとしている。緊張の汗が冷えて体が震える。でも、この震えは寒さではなく緊張によるものだ。
呼吸を整える。早まる鼓動を抑える。
「で、どうしたの?こんなところに二人っきりって愛の告白とか?」
それは冗談で言っているのか分からなかった。その笑顔が作り笑いだって分かったからだ。鷹音先輩も私と同じだったのかもしれない。私が抱いたように先輩も後輩ではなく、親友ではない何か別の想いを私に寄せてしまったのかもしれない。それが恋だって分かったからあの日私の頬にキスをした。真っ赤に赤面して。
でも、この関係も終わり。
深呼吸をして話を切り出す。
「鷹音先輩」
「何?蛍ちゃん?」
私はバックの中から例の紙袋を取り出す。
「鷹音先輩。昨日はその・・・・・・すごく大変だったと思うんですけど・・・・・・・」
「・・・・・・何のこと?」
やっぱり誰にも言ってないんだ。それとも伏せてあるのかもしれない。だから、ふたりっきりで話すこの場所が最適だった。
「皆さんにはきっと話してないんでしょう。私は知っています。だ、だって・・・・・」
その後の言葉は躊躇してしまって出てこなかった。これで終わってしまう。大好きな鷹音先輩との関係が。その終わってしまう関係が悔しいのか悲しいのか涙がでそうになるのを必死にこらえる。
「な、なんのことかな?」
鷹音先輩の笑顔が引きずる。
行け。蛍子。
自分に言い聞かせる。
紙袋を鷹音先輩に差し出す。
「本当にすみませんでした」
結局我慢できずに涙がぼろぼろとこぼれる。
鷹音先輩は渡されたものが何なのか分かっていたかもしれない。でも、その表情から私でないことを祈るかのように震えた手で私の紙袋を受け取って中身を確認する。私は頭を下げたままあげることが出来ない。
「蛍ちゃん。顔をあげて」
そう言われてようやく顔をあげる。そこには少し困ったような顔をした鷹音先輩がいた。
これから鷹音先輩に何を言われようと私にはそれを言い返す権限がない。
「これは蛍ちゃんが取り返してくれたの?」
私は首を振る。
「じゃあ、拾ってくれたの?」
首を振る。
「じゃあ・・・・・・」
次に鷹音先輩が何を言おうとしているのか私には容易に予想できた。本当に悪いことをした。許されることじゃない。嫌われる。せっかく築き上げてきた私の久々の人との関係がここで無残に壊れるのが嫌だった。だから、私は惨めでも最後まであがくつもりだ。
「本当に盗んだりしてごめんなさい」
再び深々と頭を下げる。
その後の鷹音先輩の反応は私の予想とは全く違った。
そっと私の頭に触れて優しくなでる。まるで私の罪悪感で汚れた心をきれいに磨いてくれるかのように撫でてくれた。瞳から流れていた涙が止まりゆっくりと顔をあげると鷹音先輩の頬がほんのりピンク色に染まっていて気恥ずかしそうだった。
「そうなんだ。蛍ちゃんが持って行ったんだ」
「は、はい」
私は腰を折った状態で頭だけをあげている。鷹音先輩は話している間も私を撫でる手は止まらない。
「蛍ちゃんが持ってってよかったよ」
「え?」
「だって訳の分からない男の人がこれを返しに来たらその場で警察呼んでたし」
「ああ・・・・・」
それは分かる気がする。
「でも、私本当にひどいことを・・・・・・」
「いいの。もう、過ぎちゃったことだし」
鷹音先輩は許してくれそうな雰囲気だ。パンツを盗まれたことはショックだったようだけど、その相手が異性ではないということに若干の安心があったようだ。でも、もしこの被害者が私だったらと考えると手足が震え、冗談抜きの痙攣が起きて過呼吸に襲われてその場に立っていられなくなる。それはとある過去の記憶のせいだ。中学の時に起きた事件。
「なんでそんな簡単に許してくれるんですか?」
「なんでって。それは蛍ちゃんだからじゃダメ?」
私は別に許してもらえたことに腹を立てているわけじゃない。私だったら絶対に許せない。話したくも関わりたくもなくなる。逆に恐怖に襲われて今すぐに逃げたくなってしまう。なぜ、そんな簡単に私を許してくれるのは意味が分からないからだ。
「蛍ちゃんは自分が許せない?」
「鷹音先輩の立場なら絶対に許してないです」
鷹音先輩は私の頭から手を引いて私は顔をあげる。
「許す許さないの問題じゃないです。私の下着を盗んだ時点で私はその人とは二度と口も顔も見たくないです。その人が私の下着で一体何をしたのか考えただけで寒気と恐怖に襲われます。それだけじゃない。過呼吸も起こして吐き気も起こしてそして気絶するかもしれません」
「な、なんで?そこまではさすがに行かないでしょ?」
もう言うしかないだろう、鷹音先輩だったらいいと思う。私が心を許したシェアハウス外の唯一の人だから。
「誰にも言わないと約束してください」
コクリと鷹音先輩は頷く。
「私は中学の時に痴漢に合ったんです。それも集団で」
鷹音先輩は私の告白に反応もできずただ茫然としていた。
それはまだ今のシェアハウスに住む前の話。年数で言うと2年ほど前の話。
中学2年生だった私榎宮蛍子は今とは大きく違い友好的な普通の生徒だったと思う。誕生が早く内に同級生なんていない、みんな年下なのにため口で話し来ることなんかまったく気にしていなかった。住んでいた実家から通っていた中学までは10分電車に乗る必要があった。通勤時間の電車は人がまるですし詰めのように乗り込んでいて10分だけでも窒息しそうなくらいぎゅうぎゅう詰めの電車に乗りながら学校に通っていた。
最初はいろいろと警戒していた。もちろん痴漢とか。その警戒心の強さのおかげか電車通学が不安だった中学1年の時は特に大きな事件が起きることもなかった。でも、やはりことは慣れ始めが一番危険だというのはこのことを言うのだと私はその日知った。知りたくもなかった。
中学2年のある日。それはいつもと何も変わらない朝だった。耳にイヤホンをつけてウォークマンで好きな歌手の音楽を流しながらいつものように電車に乗った。いつもと何も変わらない。入り口近くの外が見える位置を陣取って扉が閉まってゆっくりと電車が走り出す。外のいつもと同じ風景を眺めながら電車揺られていること数秒後に異変に気付いた。
お尻に何か違和感を感じた。最初は後ろの人のバックが触れているだけだろうと思っていたのだが違うとすぐに気付く。その触り方はまるで私のお尻全体をなめまわすかのようにべたべたと触り続けていた。恐怖に襲われて体が震えて強張る。そのお尻を触る手はスカートの上からスカートの中へと延びて行った。
「や、止め!」
ついに声が出た。その瞬間、私の手を誰かが押さえた。私のお尻を触りまくる人ではない。角度があまりにもおかしかったからだ。手を抑えた人の方を見ると目元が前髪で薄暗くなっている若いサラリーマンのような人だ。そして、私のお尻を触り続ける人の方を見ると髪が半分以上抜け落ちている禿げたおじさんだった。
怖かったこれから何をされるのか分からず、恐怖と混乱で私の思考は止まっていた。
そんな私を余所に禿げたおじさんの手はスカートの中からパンツの中に達そうした時私の中の野性的拒否反応でそれを拒んだ。
おじさんの手がスカートから離れた時電車が次の駅に到着した。降りる人に分乗して私もこの場から逃げようと試みるが目の前を人に塞がれる。
口を手で押さえられているから会話ができない。この異常な状況に助太刀してくれたのかと期待した。でも、全く違った。その人は中年のサラリーマンだった。正面から私のスカートをめくって指を入れようとする。私はそれをスカートの裾を押さえて必死に守る。
そんなもがく私に追い打ちをかけるかのようにカッターシャツの中にまで手が入ってきて胸まで手が伸びてくる。
「止めて!お願い!」
気付けば私は無数の男の人に囲まれていた。全員が私の体中を触っている。
恐怖に身が顔が引きずり手足は震える。そんな私の姿を見て逆に楽しんでいる様子の痴漢実行者たち。服の中に手を入れた人は私の下着を抜き取る。胸を押さえようとすると両手を抑え込まれて完全に無防備になる。足をばたつかせて抵抗しようとするとその両足も持ち上げられる。すると私のちょうど正面でスカートの中に手を入れて下着の中に指を入れようとしていた男の人はズボンを下げて男性器を出していた。これから何をされるのか分からなかった。分かりたくもなかった。
「止めて!お願いします!本当にお願い!」
強引に暴れるけど大人数十人に抑えられて抵抗できない。そして、私のパンツを脱がそうと躍起になってくる。それを必死に抑えようとしているとそこになぜか眉用はさみが流れてきた。それで私の下着を切り落とされる。なんで化粧用のものを男性が持っているのか。抵抗するために体をひねらせるとそこには女子高生だろうか。携帯を片手にくすくすと笑って私の姿を写真に収めている。男性だけではない。女性もこの電車の中にいる人たちみんなが敵だった。
助けを求めても誰も助けてくれない。敵ばかりのこの状況。カメラを片手に私の服を脱がそうとする男性陣。それを興味津々に見つめる女性陣。この世の絶望を感じた。この世界に私の味方をしてくれる人が一体どれだけいるのだろうか。絶望と恐怖に体が私の意思から離れて脱力する。
その後、私のバージンは処女は誰だか知らない人に奪われ犯された。その後交代で2人の男性に犯された。もう、その時には私に抵抗という意思はなくただの人形と化していた。どうせ誰も助けてくれない。いくらもがいてもそれを敵に押さえつけられる。もう、私に味方をしてくれる人なんていない。
スカートも脱がされてカッターシャツもずたずたに切られてもう無残に私の肌がさらされる。恐怖に押しつぶされて人じゃなくなりそうになったそんな時だった。
「お前!何やってる!」
一筋の光が私を照らすかのように目の前に現れたのはジーパンにTシャツにジャケットという服装をしたひとりの男性が私を犯す男性を押し返して立ち塞がった。この世界で唯一私の味方をしてくれている人物の姿に私は涙した。
「あんたその汚い豚足で綺麗な女の子肌に触るんじゃないわよ!」
そういって私を拘束する男性の腕を引きはがしてくれた女性も出てきてくれた。
「なんだよ?邪魔するな。そうか、お前もやりたいのか?順番を待てよ」
下半身丸出しの男性が私を助けてくれた男性に抗議するが、私を助けた男性はそんな卑劣な男性の腹部を蹴り飛ばす。その勢いで私を取り囲っていた人たちもドミノのように倒れる。
「テメーみたいな人間のクズといっしょにするな」
「何だと!こう見えて俺は一家の大黒柱だ!」
「そんな奴がか弱い女の子を襲うとか最低よ。大丈夫」
恐怖に震える私に上着を優しくかけてくれる女性。でも、その時の私はすべての人が怖くてその人が近づいてくると自然と距離を置いてしまう。その姿に少し苦笑いを浮かべる。
「そこの君。今、この電車の中は無法地帯だよ」
禿げたおじさんが私を助けた女性に気持ち悪い目線を向ける。
私とは違い胸も大きくスタイルがいい。格好もOLらしく下はスカートだ。
「君もその子と同じになりたいのかね?」
ポンと私を助けた女性の肩に触れるとまるで拒否反応を起こしたかのように女性は素早くその手をどかして禿げたおじさんの顔面を鷲掴みする。
「ごめんなさい。あんたみたいなおっさんには興味どころか鳥肌が立つから近づかないで!」
そういって頭を鷲掴みにしたまま女性は禿げたおじさんを電車の窓に叩きつける。ものすごい音が響き電車の窓にひびが入り後頭部から微量の血を流して白目を向いて気絶した。
「おいおい、喜海嶋。やりすぎだ」
「やりすぎ?女の子純潔を奪った男を生かしているだけでもありがたいと思わない?藤見?」
そう、私を集団痴漢から救ってくれたのは今私の住むシェアハウスの住民の藤見さんと芳美さんだった。
それから二人の無双が始まる。逃げようとするもの抵抗しようとするもの逆上するものをバッタバッタ倒していった。私を守るために。
「それから私はしばらく学校に行けませんでした。電車に乗ること自体も無理でしたし、そもそも人ごみに行くと体が拒否反応を起こして過呼吸になって嘔吐してしまうほどでした。しばらくは親に送ってもらって通っていました。事件ことを心配してくれる友人もクラスメイトも先生もみんな適に見えてしまう始末です。私を心配してみんな取り囲むんですけど、その取り囲まれた状況が電車の中とよく似ていて嘔吐してしまう。それでいつか私のみんな襲うんじゃないかって言う被害妄想に襲われて、頭の中では思っていなくても私は人を遠ざけるようになっちゃって・・・・・・。気付けばいつもひとりでした。転校も視野に入れてたんですけど、変に環境が変わると精神的に影響がよくないって言われて学校はそのまま通い続けました。でも、親にも仕事があって毎日私を送り迎えするのは難しくなりました。そこで私は今いる場所に住むことにしたんです」
「今いる場所?」
「私はシェアハウスに住んでいるんですよ。私を助けてくれた藤見さんと芳美さんが住んでいるシェアハウスに」
私をあの場から助けてくれたふたりは自然と拒否反応が起きなくてすぐに打ち解けることもできた。他のメンバーとも時間はかかったけど、仲良くやっていけている。あの家に私の第2の家族が出来た。そのことに正直に喜んだ。
「高校もシェアハウスに近いこの高校を選びました。そして、中学の時とは違う榎宮蛍子になろうと決めたんです。人間不信を克服して新しい人との関係を作ろうって。その新しい関係が鷹音先輩。あなたなんです」
鷹音先輩はただ私の話を無言で聞く。
「そんな集団で痴漢を受けた私は下着泥棒なんてした相手を絶対に許さない。それで一体何をしたのか。そんなものは男だろうが女だろうが変わりません。私だったら鷹音先輩みたいに絶対に許せません。だから、自分自身も許せません」
すると鷹音先輩は優しく私を包み込むように語りかける。
「私は蛍ちゃんだから許したの。蛍ちゃんなら私はどんなことをされても構わない」
「なんでそんな風に簡単に割り切れるんですか。普通じゃないですよ」
すると今度は私を優しく包み込むように抱き寄せる。柔らかない胸部が私の鼓動を速める。
「いいの。確かに下着を盗んだことは許さることじゃないよ。でも、蛍ちゃんは逃げないで正面から私に謝りに来てくれたじゃない。普通なら誰にもできないことだよ」
確かに盗んだものをバカ正直に持ち主に返すようなことをする人はいるのだろうか。怒られることがほぼ確定しているのに。そんなことをしている私って本当にバカ。
「そんなね、蛍ちゃんの素直なところ私は好きだよ」
「え?」
急に胸に矢が撃たれたような痛みに襲われる。鼓動がより一層速くなり頬が溶けるくらい熱くなる。
「大好きな蛍ちゃんだから許してあげるの。だって、私たちは・・・・・」
その後の言葉が私が事件の後に求めていた何気ない普通の言葉。
「友達でしょ?」
その言葉を聞いた瞬間、頬から大粒の涙がこぼれる。事件の傷が癒された気がした。大きくて深くて一生治らない傷だけど鷹音先輩はこの傷を治してくれる薬になってくれる。その薬となるのは友達という普通の言葉。それだけ私は癒される。
「ごめんなさい。本当にごめんなさい」
私は謝った。鷹音先輩は何も言わずに泣きじゃくる私をなだめるように頭を撫でる。
私はようやく戻って来たのかもしれない。2年前の元気な蛍子に。




