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蛍と鷹  作者: 駿河留守
13/21

パンツ

「え~、これが左辺に移行することで・・・・・・」


左辺に移行するとかどうでもいい。ノートをとる気にもなれずただイライラが募っていく。いや、全部自分のせいなのはわかっている。でも、この状況を落ち着いていられるのは相当の変態か化物くらいだ。私はどっちでもない。授業が半分くらい進んでも私のノートの新しいページは相変わらず白紙のままでそこにペンを走らせる気にもなれない。スカートの右ポケットに入っている異物が気になって仕方ない。

この時間中私はどうやってこのパンツをあの更衣室に鷹音先輩にバレずに戻すかを考えている。実を言うと体育のプールの実習は着替えなどの時間も考慮して通常よりも早めに授業を切り上げる。私が受けている授業は数学でどう考えても時間通りに終わる科目だ。今の状況ではこのパンツを元の場所に戻しに行くのは不可能に近い。

トイレに行くという方法がある。でも、トイレの方向と女子更衣室の方向は真逆。教室を出てトイレとは逆に向かえば不審に思われる。それをクリアしたところで女子更衣室には他の教室の前も通る必要がある。不審に思われる。だからと言って校舎から出てまたあの窓のところに行ってこのパンツを投げ込むということも難しい。廊下ならまだしも校舎から出てしまった余計に怪しまれる。

なんで窓から出るときにパンツを置いて行かなかったのか。なんで出たときにパンツを窓に投げ込むということを咄嗟に思わなかったのか。そもそも、なんで逃げる必要があったのか。考えれば考えるほどあの時の私はどうかしていた。

考えるんだ。何かいい方法があるはず。早くこのパンツを鷹音先輩の元に届けないと、鷹音先輩は今日残りの授業をノーパンで過ごさないといけなくなってしまう。そんな先輩のことを想像するだけで興奮してくる。いけない。いったい私は何を考えている。とにかく、早く何とか・・・・・・。

チャイムが鳴った。クラスにいる全員が詰まっていた息を漏らして大きく体を伸ばす。先生も授業に教えたことを復習するように伝えている。

あれ?終わっちゃったの?授業終わったの?

私の頭の中が真っ白になった。

その後の授業も何も頭に入らずノートにもぽっかりと白紙のページが続いた。そして、絶えずこんなことばかりを考えていた。鷹音先輩は今どんな格好で私と同じ時間を過ごしているのだろうか不安で不安で仕方なかった。きっと、パンツがないと大騒ぎしていたに違いない。先輩はパンツが盗まれたことに精神的に痛めつけられて涙を流しているかもしれない。そして、その場にいる女子は全員盗んだ奴を絶対に許さない。ただでは済まされない。パンツをはいていない先輩が今どんな格好で過ごしているのか。下に体操ズボンを履いてその上にスカートを着ているという格好をしているのだろうか。あれから2時間以上たつがこの時間まで何も連絡が来ていないということはあまり大事にする気がないのだろうか。それもそうかもしれない。ひとりの女子生徒がパンツをはいていないのだ。影に潜んでいるド変態男子高校生がノーパン女子生徒の探してしまうという事態を控えるためだろう。震えが止まらない。早くこのパンツを先輩に返さないといけない。これ以上先輩に他の人に羞恥をさらしておくことが私の中で許せない行為だった。でも、せっかくできた親友ともいえる鷹音先輩を失ってしまうという恐怖が勝ってしまう。

私は鷹音先輩が好きだ。親友という好きではなく、何と表現していいか分からないけど、とにかく普通の人とは違う行為を抱いている。私は女の子の鷹音先輩に恋をしている。そんな恋人とも言ってもいい鷹音先輩が私から離れてしまうと私はもう誰とも親友を作れない。今までは作れなかったのではなく怖くて作りたくなくなってしまう。

怖く怖く手が震えて涙が出そうだった


「蛍子ちゃん?」


急に名前を呼ばれてハッとして顔をあげる。


「どうしたの?顔色悪いよ?」


一二三さんだ。そのバックを背負ってラケットを肩にかけている。周りを見るとみんな帰宅の準備や部活に行く準備など各々の自由に動いている。いつの間にか本日の授業が全部終わって帰りのHRすらも終わっていた。

一二三さんは私と一緒に部活に行くのは毎回恒例だ。このクラスではテニス部は私と一二三さんしかいないからだ。


「具合でも悪いの?保健室にいっしょに行こうか?」


心配そうに見つめる一二三さん。

私の顔色が悪いのは体調ではない別の理由がある。

その理由を思っただけで全身から冷汗が噴き出て震えが止まらなくなる。


「ご、ごめん」


慌てて机の中の物を適当にバッグの中に入れ込む。中身を全部とは言わず半端な教科書ノート類しか入れずいくつかは床にも落ちてしまったが気に留めれる精神的余裕はなかった。


「きょ、今日は・・・・も、もう帰る!休むって伝えておいて!」


慌てて一二三さんから逃げるように教室を出る。


「ちょっと!蛍子ちゃん!」


ただ無心になって私は走り続ける。ポケットに残る異物への意識は怠らない。

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