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蛍と鷹  作者: 駿河留守
11/21

忠告

梅雨の空には鼠色の雲がびっしりと広がって太陽の光を覆い隠しているくせにジメジメとして蒸し暑い。それはまるで私の今の心情をそのまま表現したような天気だ。雨は夕方ごろからまとまって降るらしく今日も部活はできないかもしれない。そのせいで気分も少し曇り空だ。

時間は昼休み。この雨が降りそうな天気では屋上に生徒はひとりもおらず私ひとりだけだ。親から送られてくる仕送りの節約のためにお昼の弁当は自分で毎日作ってきているのだが今日はその弁当へ箸が進まない。食欲が昨日の夜から全くない。

曇っている空を眺めながら鷹音先輩のことを考える。セミロングの茶髪に健康的に焼けた肌に淡く輝く宝石のような藍色の瞳。ほっそりとしているけどしっかりと筋力もありテニスも上手だ。昨日の別れ際の鷹音先輩の笑う表情はいつもとは違う、先輩として後輩に向けた物ではなく、ひとりのかわいい友人として向けた物なのだろうか。いつも以上に輝いていた。でも、先輩は女の子である。私も女の子である。決して同性には抱いてはいけない気持ち、感情、欲求を私は抱いしてしまっている。

それが恋なんだと思った瞬間、感情が高ぶって体中から変な汗が噴き出た。昨日のベッドの中でそんな状態になってしまった。先輩の顔を想像しながら指を口に・・・・に入れて気付いたら自慰行為、手淫をしていた。そんなことをしている自分に半分くらい絶望した。

鷹音先輩のことをまた考えてしまったらまた昨日みたいなことになってしまう。ぶんぶんと首を振ってペットボトルのお茶を一気飲みして食べかけのお弁当をしまって屋上をそそすかと後にする。

とぼとぼと階段を下りているとトイレから帰りなのか一二三さんと遭遇した。


「ヤッホー!蛍子ちゃん!」


うるさいな。

頭の上でふわふわと意識が浮かんでいた私を一気に現実に引き戻す。


「何?」

「いや~、なんか最近疎遠になっている気がするんだよ。部活もいっしょなのに」


最近じゃなくて最初から。


「そうそう、最近蛍子ちゃんテニスがめきめき上達してるよね。初心者とは思えないよ」

「そう。ありがとう」


あなたの見えないところで練習しているのよ。主に鷹音先輩と。

しばらく、教室まで無言だった。別にこの子と話すことなんて何もない。私に声を掛けておいて置き去りにしてさらにクラスでの友好関係作りの出鼻をくじいた張本人と私はいっしょにいたくなかった。


「そういえばさ、蛍子ちゃんって矢々島先輩のお気に入りだったりする?」

「お気に入りで何か悪いの?」


テニス部中にやはり私と鷹音先輩の関係は一二三さんが言うような感じになっているようだ。仲の良い先輩後輩という関係に。鷹音先輩のお気に入りということに私はなっているようだ。まぁ、正解だけど。


「あのさ・・・・・・蛍子ちゃんは鷹音先輩のこと好き?」

「な!」


そう聞かれた瞬間、緊張感が一気に高まって頬が赤く染まっているのが外見で分かってしまうほど頬が熱くなる。

その私の反応に一二三さんは勝たずして図星だと分かったようだ。それから話を続ける。


「気を悪くしたらごめんね」


話す前に私に謝る。その理由が私には意味不明だった。


「実はね、部長に聞いた話なんだけど」


ああ、某テニス漫画の部長に似たイケメン部長ね。私からすればいきなり目の前で驚かされたということで印象はさほど良くない。


「矢々島先輩って生徒会長とか結構目立つ役職について一見真面目でいい人に見えるよね」


一見じゃなくてそのままじゃない。真面目だし優しいし。


「でも、実際にはいろいろと黒い噂もあるんだよ」

「黒い噂?」


頷いて一二三さんは続ける。


「前に後輩の人、つまり私たちのひとつ上の先輩に蛍子ちゃんと同じ矢々島先輩のお気に入りの子がいたんだって」


以前に私の立ち位置の人がいたのか。2年生に私とほぼ同じ年の人の中に。

でも、今はその姿は見受けられない。


「その矢々島先輩のお気に入りの人、辞めっちゃったんだよ」

「部活を?なんで?」


一二三さんは首を振る。


「違うの?何が?」

「辞めたのは部活じゃなくて学校だよ」

「え?」


なんで?


「原因は矢々島先輩らしいんだ」

「なんでよ?」


聞きたくもない一二三さんの話を私は迫るように聞き入る。


「そのお気に入りの子が矢々島先輩にストーカーされていたらしいの」

「ストーカー?」

「それに気づいたその子はやめてほしいと言ったんだけど止めなくて気持ち悪くなったその子は顧問に相談したんだって。それでもストーカーは収まるどころかエスカレートしていったんだって」

「どんな風に?」

「その子家の中に勝手に入ったり、家の中に隠しカメラを設置した、ほぼ変態行為だよ。一番ひどかったのはそのこと仲の良かった子たちが襲われたってことだよ」

「え?なんで?」

「とられたと思ったかららしいよ。そのお気に入りの子を」

「ど、どういうこと?」

「矢々島先輩の好意は後輩という枠を超えておかしな方面に動いているらしいんだよ。その子自身も襲われたこともあるらしい」

「そ、そんな風には見えないわよ。第一あんな優しい人がそんなことするわけがないじゃない!」


つい、むきになって反論する。


「でも、実際にそのストーカー行為から逃げるために学校まで辞めてるんだよ。どれだけひどかったかは証明されているよ。うちは蛍子ちゃんが同じ目に合ってほしくないからこうして忠告を」

「うるさいうるさいうるさい!そんなの信じない!そんなわけないじゃない!鷹音先輩がそんなことするわけがないじゃない!」

「でもね、蛍子ちゃん」

「もう、あんたの話なんか聞きたくない!」


そう言い捨てて私は教室に入る。口喧嘩の様子を不思議そうに見ていたクラスメイトが私に注目する。弁当箱をバックの中に放り込んで席に着いてふて寝する。

そんなわけない。鷹音先輩がそんなことをするわけがない、そうよ。所詮噂。だから、大丈夫。そんなことはない。そう言い聞かせながら気持ちを整理する。先輩を好きになってしまった気持ちと、ストーカーかもしれない先輩の噂に対する困惑する気持ちの両方を押さえながら私はその日の昼休みを過ごした。

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