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冬の日

作者: 白河恵

冬の日、私は部屋の中にいた。

暖かい中に一人で、煌めく窓の向こうを眺めていた。

私の兄弟とその友達は皆外に出て、雪にはしゃいでいる。

私は元気に走り回る彼らを見ていると、羨ましくなった。

なんの疑問もなく無邪気に、意味なく雪と戯れている。

弟はいつもみたいに、ゴーグルを着けず、こちらに手を振ってくる。

私は無機にそれに応えた。

戻ってきたらどうせ、雪に焼けた、目が痛いと文句を言うのだろう。

勿論、私だって遊ぼうと思えば存分に、彼らと遊ぶことはできる。

そのくせこんな風に引きこもっているのは、どうしてだろう。

寒いから?疲れるから?子供みたいで馬鹿らしい?

どれも正解だけど、それは全部正しくない。

私はその通りに思っているけれど、何年か前まではそんなこと考えずに、彼らと一緒にいた。

けれど、いつの間にか離れていった。

きっと、まず私は行動を止めたのだ。

そして、そのあとにもっともらしい理由を付けて、自分を納得させていただけなのだろう。

動かなくなってしまったのは多分、今更思い出すこともできないくらいに、とても些細なことが原因だったはずだ。

なんにせよそれは、私を押し留めるには十分な理由だった。

これが大人になるということなのだろうか。

私はそう思ったけれど、だとすればそれは、とても退屈なことに違いない。

私はこんなにも寂しいのだから。

思い詰めていた私は、再び窓の向こうを覗く。

たった一枚の隔たりのせいで、まるで別世界だ。

無駄だらけで下らない騒がしい世界と、無意味でつまらない落ち着いた世界。

あちらの世界では雪合戦が始まっている。

弟は雪玉を作り、こちらへ振りかぶった。

冗談でしょうと、彼に微笑み返した私は、弟がまだ子供なのだということを忘れていた。

目の前で砕け散った雪玉が、世界を一つにするようなことはなかったけれど。

私は部屋着のまま外へ飛び出した。

寒さも気にせずに、弟を抱え上げた私に他の兄弟達は大笑いしている。

なにがおかしいのだ。

私は兄の顔に雪玉を食らわせた。

寛容な兄はご丁寧にも、2倍の雪玉を、私に放り投げた。

私は弟を楯にして、それを防いだ。

私はべちゃべちゃになりながら逃げ回って、反撃して、いつの間にか、違う世界にいるようだった。

日が暮れるまでそうしていて、私は家に入った。

次の日私は、やはり風邪をひいてしまった。

対策もせずにあれだけのことをしたのだから当然だ。

それでいて私は何の反省もなく、とても清々しい気分だった。

まどろむ中で昨日のことが思い出されて、にやけてしまう。

とても楽しかった。

けれど、もう一度はやらない。

勢いとはいえ、よくもあれほど考えなしの行動をとれたものだ。

それでも、きっと、私はいつかまた、あんなことをしてしまうのだろう。

思い出すこともできないような些細なきっかけで大人になった私なのだから、同じくらい些細なきっかけで子供に戻ったって、誰も咎めはしないでしょう。

弟は今日もゴーグルを着けずに走り回っている。

何度言っても学習しないのだから。

まだあちら側しか見ることができない弟でも、いつかは世界を行き来して、戻れなくなってしまうのだろう。

それはおそらく、私も同じだ。

寂しいけれど、それでもかまわない。

いつまでたっても世界を跨げない兄を見ていると、それはそれで悲しくなってくるから。

いい加減、職につくがいいよ。

シリアスになりきれないのは恥ずかしいから。

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