逃げ続けた最強
今回は「弱さが武器になる世界」を描いてみました。
銃が最強の世界で、ナイフ一本から始まる物語がどこまで広がるのか。
これからも見守ってもらえたら嬉しいです。
この広大で荒廃した世界には――バベルと呼ばれる一本の巨大な塔がそびえ立っている。
人類最後の安全圏であり、同時に競技場でもある場所だ。
バベルの内部では、《レート戦》と呼ばれるゲームが行われている。
参加者はアンドロイドを操作し、危険なフィールド――通称「外」へと送り出す。
目的はただ一つ。
生き延びて物資を持ち帰ること。
時は22XX年。
地上は謎のウイルスによって崩壊し、街はゾンビに支配された。
生身の人間が外を歩くことは、もはや自殺行為だ。
だからこそ、レート戦のランクはすべてを意味する。
装備、権限、居住区――そして、生きる資格までも。
そして――
Eランクまで落ちた者は、バベルから追放される。
それは敗北を意味しない。
それは、死刑宣告だ。
俺は、端末に表示された数字から目を逸らした。
レート:D-
次に落ちたら、終わりだ。
「……そう、か」
小さく呟いても、誰も答えない。
バベルの下層、薄暗い待機区画。ここにいるのは、俺みたいな“失敗作”ばかりだった。
これまでに失った物資は数え切れない。
銃、弾薬、防具、回復キット。
慎重にやってきたつもりだったのに、結果はこのザマだ。
原因は分かっている。
俺が、臆病だからだ。
ゾンビのうなり声が聞こえただけで引き返す。
銃声が響けば身を伏せ、仲間のアンドロイドがやられても助けに行けない。
そのたびに回収量は減り、評価は下がり続けた。
支給ボックスを開く。
中にあったのは――
古びたナイフが一本。
「……はは」
乾いた笑いが漏れた。
銃世界で、ナイフ一本。
冗談にしても、悪趣味が過ぎる。
だが、拒否権はない。
このレート戦に失敗すれば、俺はEランクへ落ちる。
バベルからの追放。外での生存。生身で。
無理だ。
俺には、そんな勇気はない。
それでも――
フィールド転送のカウントダウンは、無情に進んでいく。
《5》
ナイフの柄を、ぎゅっと握る。
手が、震えている。
《4》
どうして俺は、まだここにいるんだろう。
《3》
銃も持てないくせに。
《2》
戦えもしないのに。
《1》
光が視界を塗り潰した。
――次の瞬間、俺は“外”に立っていた。
崩れたビル。腐臭。
そして、背後から聞こえる、ぬちゃりという足音。
ゆっくり、振り返る。
そこには、ゾンビが一体。
距離、五メートル。
「……来るな」
声が、情けないほど震える。
逃げなきゃ。
そう思った瞬間――
なぜか、体が動かなかった。
いや。違う。
――俺は、ナイフを構えていた。
ゾンビが、ゆっくりと距離を詰めてくる。
腐り落ちた顎。濁った眼球。
ナイフ一本でどうにかなる相手じゃない。
――その様子を、バベル上層部では別の視点で見下ろしていた。
巨大スクリーンに映し出されているのは、俺の視界。
心拍数、視線の揺れ、身体の微細な動きまで数値化されている。
「……は?」
最前列に座る女が、低く声を漏らした。
銀髪を無造作に束ね、軍服風のコートを羽織った上位ランカー。
マリー・ヴァレンタイン。
Sランク帯に名を連ねる、バベルでも数少ない実戦主義者だ。
「なんでコイツ、こんなランク下にいるんだ?」
その言葉に、隣のオペレーターが苦笑する。
「いやいや、マリーさん。動き、見てくださいよ」
スクリーンの中の俺は、後ずさりしながら必死に距離を保っている。
足取りは乱れ、構えも不安定。
どう見ても“素人”だ。
「避けるだけで精一杯じゃないですか。勝ち目なんてないですよ」
「……でも、コイツ」
マリーは、画面から目を離さない。
ゾンビが腕を振り上げる。
それを、俺は紙一重でかわした。
――偶然に見える。
だが、マリーの眉がわずかに動いた。
「……距離が、一定だ」
「え?」
「踏み込みも、退きも。全部、ギリギリ」
オペレーターは一瞬言葉に詰まったが、すぐに肩をすくめる。
「結果論ですよ。たまたまです」
「……」
沈黙。
その間にも、スクリーンの中の俺は逃げ続けている。
攻撃しない。
だが、一度も捕まらない。
オペレーターが端末を操作しながら、淡々と言った。
「次のレート戦で落ちたら、コイツは切り捨てです」
「……そうか」
マリーは短く答え、立ち上がった。
「無駄だと思うなら、それでいい」
「どこ行くんです?」
「……念のため、だ」
彼女は振り返らず、観戦席を後にする。
その頃――
フィールドの俺は、瓦礫の隙間へと滑り込んでいた。
ゾンビの腕が、空を切る。
息が詰まる。
心臓が壊れそうだ。
それでも――
俺は、逃げ切った。
まだ、戦っていない。
ただ、生き延びただけだ。
瓦礫の影に身を潜め、俺は膝に手をついた。
「……はぁ、はぁ……」
助かった。
少なくとも、今は。
ゾンビの気配は遠ざかり、周囲には不気味な静寂だけが残る。
俺はゆっくりと立ち上がり、周囲を見渡した。
――その時だ。
崩れた建物の奥、半分潰れた端末ラックの中に、
不自然に綺麗な金属光沢が見えた。
読んでいただき本当にありがとうございます!
めっちゃいい設定だと思うけど、実は続き何も考えてないw
果たして俺は続きを書けるのか!?
こうご期待くださいませませ。




