モリノソト
目を覚ますと、森は朝だった。
昨日と、ほとんど同じ光。
同じ音。
同じ匂い。
ナナは、少しだけ考えて、
考えるのをやめる。
起き上がると、ルルがすぐに動いた。
伸びをして、扉の方を見る。
「まだだよ」
言っても、ルルは座らない。
しばらくして、
外から、足音がした。
軽くて、一定のリズム。
ナナは、何も言わずに立ち上がる。
扉を叩く音。
ひとつ。
「……おはよう」
声がした。
ナナは、扉を開ける。
カイさんが立っていた。
本当に、来た。
「おはよう」
そう言うと、
カイさんは少し照れたみたいに笑った。
「約束だから」
その手に、紙袋がある。
見たことのない色。
森にはない匂い。
「それ、なに?」
「街で買った」
少し間を置いて、付け足す。
「甘いもの」
ナナは、紙袋を見る。
おばあちゃんが、後ろから顔を出した。
「まあ」
「おみやげです」
カイさんは、そう言って頭を下げる。
「ありがとうございます」
ナナは、袋を受け取った。
軽い。
でも、中で何かが触れ合う音がする。
台所の机に置いて、開ける。
包み紙にくるまれた、小さなお菓子。
色が、少し派手だ。
「……これ、森にない」
ナナが言うと、
カイさんはうなずく。
「外のやつ」
ナナは、一つ持ち上げる。
匂いをかぐ。
甘い。
知らない甘さ。
おばあちゃんが、目を細める。
「お菓子なんて、久しぶりね」
ナナは、少し迷ってから、
一つ、おばあちゃんに差し出した。
「どうぞ」
「ありがとう」
おばあちゃんは、ゆっくり包み紙を開ける。
かじって、
少し驚いた顔をした。
「……甘いわね」
「ね」
ナナは、自分も一口食べる。
舌に残る味が、
森のものじゃない。
ナナは、思う。
カイさんは、
ちゃんと外から来た。
それだけで、
昨日より、少しだけ違う朝だった。
ルルは、机の下で、
静かに尻尾を振っている。




