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ヤサシサ

昼前。


 森の奥から、足音がする。


 昨日より少し早い。


 ナナは、もう立ち上がっている。


 扉を開ける。


 カイさんが立っている。


 目が合う。


 少しだけ、間。


「……大丈夫か」


 昨日のことを、直接は言わない。


 でも、声が低い。


 ナナは、視線をそらす。


「なにが」


「涙...」


 静かに言う。


 責めない。


 確かめるみたいに。


 ナナは、唇をきゅっと結ぶ。


「覚えてない」


「嘘だな」


 即答。


 でも、やわらかい。


 ナナは、少しだけ睨む。


「……ちょっと、変だっただけ」


「うん」


 カイさんは、それ以上追わない。


「変でもいい」


 それだけ言う。


 ナナは、少しだけ息を吐く。


「今日は、これ」


 差し出された包み紙。


 昨日と違う形。


 透明な袋の中、白い粉をまとった四角いもの。


「外の街で流行ってる。ミルク餅。冷やして食べる」


 ナナは、袋を受け取る。


 やわらかい。


 昨日より、知らない。


 カイさんは、もう一度だけナナを見る。


「夜、ちゃんと寝たか」


「……寝た」


「怖い夢は」


「見てない」


 本当かどうかは、自分でも分からない。


 でも、そう言う。


 カイさんは、うなずく。


「無理するなよ」


 その言葉が、少しだけ重い。


 ナナは、頷く代わりに言う。


「今日も、来た」


「来るって言っただろ」


 当然みたいに言う。


 その言い方に、

 ナナの肩がほんの少し緩む。


「毎日来るよ」


 続ける。


 昨日の夜の続き。


 ちゃんと、つながっている。


 ナナは、小さくうなずく。


家に入る。


 おばあちゃんは、椅子に座っている。


「こんにちは」


 今日は、ちゃんと目が合う。


「こんにちは」


 少しだけ、間。


 ナナは三つ目の湯のみを出す。


 机に置く。


 昨日より、自然に。


 ミルク餅を切る。


 刃がやわらかく沈む。


 断面が、静かに揺れる。


 ナナは口に入れる。


 冷たい。


 思わず目を見開く。


「……すごい」


 溶ける。


 甘さが、あとから広がる。


 おばあちゃんも食べる。


 一拍、遅れて。


「やわらかいねえ」


 昨日より、遅れが長い。


 でも、まだ壊れていない。


 カイさんは、その遅れを見ている。


 ナナも、見ている。


 言葉にはしない。


 甘さだけが、確かにここにある。

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