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ツナガリ

朝は、いつもより白かった。


 光が、家の中をやわらかく照らす。


 ナナは目を開ける。


 少しだけ、眠りが浅い。


 隣の部屋から、物音。


 湯のみの触れ合う音。


 ほっとする。


 いつもの音。


 ナナは起き上がり、台所へ向かう。


 おばあちゃんが、立っている。


 背中は、いつもと同じ。


「おはよう」


 声も、同じ。


 でも。


「……おはよう」


 ナナは、返す。


 机の上には、湯のみが二つ。


 昨日は、三つだった。


 ナナの足が、止まる。


「どうしたの」


 おばあちゃんが振り向く。


 笑っている。


 やわらかい笑顔。


「……なんでもない」


 ナナは座る。


 湯のみを持つ。


 温かい。


 普通の、朝。


 でも。


「今日は、晴れるねえ」


 おばあちゃんが言う。


 窓の外は、曇っている。


 薄い雲。


 光はあるけど、青くはない。


 ナナは、窓を見る。


「……くもりだよ」


「そうかい?」


 おばあちゃんは、首をかしげる。


 少し遅れて、うなずく。


「そうだねえ。くもりだ」


 その“遅れ”が、昨日よりはっきりしている。


 言葉が、あとから来る。


 誰かの正解に合わせるみたいに。


 ナナは、湯のみを置く。


 小さな音。


「ねえ」


「なんだい」


「昨日、なにしてたっけ」


 おばあちゃんは、考える。


 考える時間が、長い。


「昨日は……」


 止まる。


 目が、少しだけ泳ぐ。


「……いつもどおりだよ」


 笑う。


 やさしい顔。


 でも、その答えは

 “昨日”の形をしていない。


 ナナの胸が、きゅっとする。


 昨日は、違った。


 外の話をした。


 カイさんが来た。


 おばあちゃんは、少しだけ混ざっていた。


 でも今、その痕跡がない。


 まるで、

 触れていないみたいに。


「……そっか」


 ナナは、それ以上聞かない。


 聞けない。


 机の上。


 湯のみは二つ。


 昨日の“三つ”は、

 どこにもない。


 ナナは、そっと周りを見る。


 棚。

 布。

 床。


 全部ある。


 変わっていない。


 はず。


 でも、昨日感じた“薄さ”が、

 今はもっとはっきりしている。


 光が強いから、

 ごまかせない。


 おばあちゃんが、椅子に座る。


 動きが、ほんの少しぎこちない。


 遅いわけじゃない。


 ただ、

 “つながり”が弱い。


 ナナは、ふと思う。


 もし。


 何かが、

 この家を支えているとしたら。


 それが、少し揺れたら。


 先に、

 どこが変わるんだろう。


 自分?


 それとも――


「ナナ?」


 呼ばれる。


 ナナは、はっとする。


「どうしたんだい。ぼうっとして」


 笑顔。


 ちゃんと、笑っている。


 ナナは、うなずく。


「なんでもない」


 本当に?


 自分に問いかける。


 答えは出ない。


 でも。


 昨日よりもはっきり、


 この家のどこかが

 ぴったりはまっていない。


 それだけは、分かる。


 そして。


 今日は、きっと

 カイさんが来る。


 そのことだけが、

 昨日とちゃんとつながっている。

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