ヘンカ
翌朝も、足音は同じだった。
扉を開けると、
カイさんは少し重そうな袋を持っていた。
「今日は、焼いたやつ」
表面は固くて、
触ると、かすかに音がした。
割ると、
中から白い蒸気が出る。
「……あったかい」
「朝に焼いたパンだよ」
ナナは、一口かじる。
外は固いのに、
中は柔らかい。
噛むたびに、
少しずつ甘さが出てくる。
おばあちゃんは、しばらく眺めてから、
小さくかじった。
「……昔ね」
言いかけて、止まる。
「?」
「……いいえ」
それ以上、続かなかった。
ナナは、気にしなかった。
⸻
次の日は、
四角い、小さなお菓子だった。
指で押すと、
すぐに形が戻る。
口に入れると、
すっと溶ける。
甘さが、
一瞬で消える。
「消えちゃった」
「そういうやつ」
おばあちゃんは、
半分食べて、首をかしげた。
「あら……」
「どうしたの?」
「もう、食べた?」
「食べたよ」
おばあちゃんは、
自分の手元を見る。
包み紙は、まだ閉じたままだった。
「……そう」
その日は、それで終わった。
⸻
また次の日。
今度は、丸くて、
表面に砂糖がまぶしてある。
持つと、指にじゃりっと残る。
噛むと、
中から少しだけ苦い味が出た。
「大人の味だな」
カイさんが言う。
ナナは、よく分からなかった。
おばあちゃんは、
一口でやめた。
「これは……」
「?」
「ナナ、あなたが食べて」
声が、少しだけずれていた。
ナナは、受け取る。
おばあちゃんは、
それを見ていなかった。
⸻
夜。
おばあちゃんは、湯のみを並べる。
一つ、二つ。
三つ……置こうとして、声をかける。
「おばあちゃん?」
「なに?」
「今は、二人だよ」
おばあちゃんは、
一瞬、黙った。
「あら……そうね」
でも、
もう一つの湯のみは、
そのまま置かれた。
ナナは、何も言わなかった。
言葉にするほどの違和感じゃない。
ただ、
少しだけ、ずれただけ。
⸻
次の朝。
カイさんが来たとき、
ナナは聞いた。
「ねえ」
「ん?」
「外のもの、
ずっと持ってきてたらさ」
言葉を探す。
「……変になること、ある?」
カイさんは、
すぐには答えなかった。
家の中を見る。
おばあちゃんを見る。
机の上に数個、
使われていない湯のみを見る。
「……あるかもな」
ナナは、うなずいた。
理由は、聞かなかった。
でも、
その答えだけでよかった。




