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アサノニオイ

日が傾く。


 森の色が、ゆっくり濃くなる。


 朝と同じ道なのに、

 影の位置だけが違っていた。


 ナナは、その変化を見て、

 見なかったことにする。


 夕飯は、いつも通り。


 おばあちゃんは、

 同じ話をして、同じところで笑った。


 ナナは、相槌を打つ。


 それでいいと思った。


 食べ終わるころ、

 ルルが一度だけ外を見た。


 もう、足音はない。


「今日は、来なかったね」


 おばあちゃんが言う。


「朝に来たよ」


「そうだったかしら」


 ナナは、うなずいた。


 片づけを終えると、

 窓の外は、暗くなっている。


 森は、夜の匂いに戻った。


 布団に入る前、

 ナナは、包み紙を取り出す。


 きれいにたたんだそれを、

 指で押さえる。


 甘い匂いは、もうしない。


 でも、思い出そうとすると、

 ちゃんと浮かんだ。


 知らない味。

 知らない場所。


 外は、変わる。


 カイさんは、来る。


 明日も。


 ナナは、布団に潜る。


 ルルが、足元で丸くなる。


 おばあちゃんの寝息が、

 向こうの部屋から聞こえる。


 森は、何も増えない。


 それでも、

 今日という日は、

 確かに一日分、進んでいた。


 ナナは、目を閉じる。


 朝の匂いを、

 もう一度だけ思い出してから。

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