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マタアシタ
甘い匂いが、少しずつ薄れていく。
包み紙が、机の上で音を立てた。
カイさんは、立ち上がる。
「じゃあ、そろそろ」
ナナは、思ったより早く言われた気がした。
「もう?」
「日が高くなる前に戻らないと」
ナナは、うなずく。
理由は、分からない。
でも、そういうものだと思った。
ルルが、扉の前に行く。
先に立って、待っている。
カイさんは、少しだけ困った顔をした。
「賢いな」
ナナは、ルルの背中を見る。
「また、来る?」
声は、小さかった。
カイさんは、すぐに答えた。
「来るよ」
「いつ?」
「明日」
迷いはなかった。
ナナは、ほっと息を吐く。
「……ほんとに?」
「約束だから」
同じ言葉。
でも、昨日より、少し重い。
カイさんは、扉の外に出る。
振り返って、言った。
「外の話、
また持ってくる」
ナナは、うなずいた。
扉が閉まる。
足音が、森の中に溶けていく。
しばらくして、
何も聞こえなくなった。
おばあちゃんが言う。
「にぎやかな人ね」
「うん」
それ以上、話さなかった。
ナナは、机の上の包み紙をたたむ。
甘さは、もう指に残っていない。
でも、匂いだけが、
少し遅れて消えた。




