021 タバコ、タバコ、タバコォ!!
そんなことはつゆ知らず、ルーシはパーラのもとへ戻っていた。
「あっ、ルーちゃん!」
「ああ、待たせてすまないね」
「良いよ! でさぁ、授業どうなったの?」
「キャメルお姉ちゃんと同じカリキュラムを組まれてしまったよ。最悪だ」
「え? マジ?」
「マジらしい」
パーラは眉をひそめる。
「だって、ルーちゃん10歳じゃん。授業ついていけないでしょ」
「だから最悪なんだよ。ッたく、クール・レイノルズの娘という称号は、必ずしも良いほうへ傾くわけじゃないようだ」
パーラはどこか同情するような表情を見せつつ、ルーシの肩を軽く叩いた。
「大丈夫だよ、ルーちゃん! なんでたって、ここにはメントちゃんも、キャメルちゃんも、メリットちゃんもいるし! だからきっと、絶対大丈夫!!」
「そうかい……」
これが青春というものなのだろうか。所詮、小学校も卒業していないルーシには分からない。ただ、キラキラした目でこちらを覗かれるとき、ルーシはその目をそらしたくなる。
「……クソが」
母国語で毒づく。当然、パーラはこの言語を理解できない。
「ん?」
「なんでもないよ。ま、勉強面じゃキャメルお姉ちゃんを頼れ、って言われているし、パーラの言うようになんとかなるはずさ」
「ねえ、ルーちゃん」
「なんだい?」
「さっき話してたヒト、アークくんでしょ?」
会話をいきなりすげ替えやがった。まあ、雰囲気が壊されるよりはマシだと、ルーシは適当に答える。
「そうだよ。知り合いか?」
「アニメとかゲームの話、よくするんだ! でも、妙に表情が暗かった。アークくんらしくない」
「まあ、アイツにも悩みがあるのさ。多分な」
「ルーちゃん、なにか知ってるでしょ?」
「あぁ?」
「だって、世間話にしては長すぎるし。そもそも、ルーちゃんとアークくんって知り合いだったの?」
「そうだが」
「じゃあ、なにか知ってるでしょ?」
パーラはしっかりこちらの目を見てくる。それが故、ルーシも逃げ場を見つけられない。ルーシはどんな無法者よりも、こういう少女のほうが苦手だ。純粋で純朴な少女が。
彼女は首を振り、観念したかのように、
「……、ああ。ウィンストンって野郎、知っているか?」
と、言った途端、
「パーラ、いつまでルーシ待ってるんだよ~。授業始まっちまうぞ?」
メントが現れた。ナイスタイミングだ、と思いつつ、ルーシはメントに同調する。
「そうだな。もう授業が始まる。パーラ、この話はあとにしよう」
「分かった! じゃ、放課後会おうね!」
「ああ」
振り分けられたクラスは、パーラと真逆の方向のようだった。ルーシはどこか安堵の表情を浮かべる。
(このおれが、女のガキごときに臆すなんてな)
今まで散々手にかけてきた。きっと、パーラのような少女も殺したことがあっただろう。それでも、ルーシの殺人なんて、統計上の数字にしか過ぎない。そう思わないと、やっていけない。
*
「あー……」
「ルーシちゃん、大変ね……」
授業初日、隣にはキャメル・レイノルズ。彼女はつきっきりでルーシに勉強を教えていたわけだ。
ただ、すでにルーシは口から煙が吹き出しそうだった。それは、キャメルの同情の目つきからも明らかだ。
そろそろブチ切れそうになったとき、予鈴が鳴った。ルーシはキャメルとの会話も抜きに、一目散に校舎裏へ向かう。
「タバコ、タバコ、タバコォ!!」
幼女が口走るにしては、あまりに似合わない言葉とともに、ルーシは校舎を駆け抜けていく。ニコチンの禁断症状、というか、今まで感じたことのないストレスがルーシを狂わせたようだ。
と、スカートがめくれるのも気にせず走り抜けていれば、
「てめェがルーシ・レイノルズだな? ウィンストンさんがオマエをお呼びだ。今すぐ来い──!!」
コンマ単位で、ルーシはよく分からん男子生徒を羽根で吹き飛ばす。なお、ルーシは自覚すらしていない。
「喫煙所はどこだぁ!!」
学校に喫煙所があったとして、10歳児が入れるわけない。それでもルーシはスカートの裏側のパンツをみんなに見せながら、ダッシュする。




