019 寂しくない
「なあ、パーラ」
「なーに?」
「キャメルお姉ちゃんやメントがパーラのことを守っているらしいが、怖くないのか?」
「なんで? ふたりとも強いじゃん」
「いや、安全保障を他人に任せるなんて、私には耐えられなくてな」
「私は耐えられる、というか、良い友だちに恵まれたと思ってる! 別に強さがすべてじゃないしね!」
「強さがすべてじゃない、か……」
ルーシには到底理解できない話だ。彼女にとって、強さとはすなわち美徳。それだけは譲れない。
ただ、そう考えながらも、パーラに手を引かれる幼女は、彼女の言葉の裏側に潜む意味を探ろうとしていた。自分とは違う価値観を持つ者との交流に、すこし意味を感じつつあった。
「ねえ、ルーちゃん」
「なんだ?」
「強さだけが大事だと思ってたら、ちょっと前のメントちゃんみたいに友だちできないよ? 確かにこの学校は荒れてるけど、強さがすべてだったら寂しいしさ」
パーラの言葉に、ルーシは一瞬戸惑う。確かに、今のルーシにはクールやポールモールという頼れる仲間がいる。いるが、完全に信用しているわけではない。信頼や信用しているのであれば、登校途中にスマートフォンを頻繁に見たりしない。
「寂しい、か」
「うん。ルーちゃんって大人びてるけど、時々寂しそうな目になるからさ。そこはちょっと心配だね」
大人の心を持つルーシにとって、パーラのような純粋に物事を捉えられる存在は新鮮に思える。考えてみれば、小学校もろくに通っておらず、それこそ10歳の頃から犯罪に明け暮れていた前世を振り返れば、パーラやメント、メリットのような存在と関わるのは初めてなのかもしれない。
「あ、着いたよ」
職員室、というか、職員用の校舎へたどり着いた。ルーシは、あらかじめ送られてきた生徒用のカードキーを入口に差し、そこへ入っていく。
「ありがとう、パーラ」
「どういたしまして!」
箱の大きさの割に、教員は数名しかいなかった。コーヒーの匂いがまん延する場所で、ルーシは適当な職員を捕まえる。
「あ、ルーシね」
「はい。ルーシ・レイノルズです」
「クールの娘にして、キャメルの親戚。もう編入手続きは済んでるし、このクラスに向かってちょうだい」
「分かりました。ありがとうございます」
「あのクールの娘とは思えないくらい、礼儀正しいわね」
「父は反面教師でもありますから」
そんな冗談とも思えない冗談とともに、ルーシは一礼しその場から立ち去る。
(いきなり授業な上に、単位設定も済まされているようだな。こりゃあ、キャメルお姉ちゃんに頼るしかないか)
勉強ではキャメルに頼れ、と言われているので、まあ彼女に期待するしかない。ルーシはパーラの待つ職員用校舎の前へ歩いていく。
そんな最中、
どこかで見た顔がいた。豊かな金髪に、女顔の少年。アークだ。
ルーシは足を止め、こちらに気がついていないアークへ話しかける。
「よう、アーク」
「君は──」
「もう退院できたのか。アンゲルスの医学は半端じゃないな」
「まあね……」
顔色が良くない。おそらく退院したことを伝えに来たのだろうが、この顔色だったらまだ入院していたほうが良い気もする。
「外にヒト待たせているからさ、すこし話そうぜ」
「別に、話すことなんてないけどね」
「あるだろ。オマエをボコした野郎の情報とか」
「……、ウィンストンには関わらないほうが良い」
「なんで?」
「アイツ自体も強いけど、アイツとつるんでるギャングたちがもっと厄介だから」
「ギャングとつるんでいるのか。で? なんでオマエは、ウィンストンと喧嘩したんだ?」
「〝派閥〟の仲間がアイツにやられたからだよ。ぼくはランクBだから勝てないのも承知だったけど、アイツはギャング仲間連れてぼくを本気で殺すつもりだったみたい」




