道標の言の葉をつむぐ人
君が見たのは。
その真っ直ぐな瞳にうつったもの?
その風がそっと鼻先をかすめたとき?
その耳に届いた誰かの音色?
その口にしたときに広がる味わい?
その肌で触れた温度?
その記憶にネガのように焼きまわしたもの?
そのこころの泉に星の欠片が落ちたもの?
君が見たのは。
君だけの景色。
でも、もし――
全く同じものが見える人がいたら。
それをきっと奇跡と呼ぶのかもしれない。
君が感じたことは。
間違いじゃない。
君が想ったことは。
間違いじゃない。
君が考えたことは。
間違いじゃない。
君が感じたことは。
正しくもない。
君が想ったことは。
正しくもない。
君が考えたことは。
正しくもない。
結局、正誤なんて。
誰かが決めたこと。
ただ、心の声に耳を傾けて。
自分がしたいことを。
自分にさせてあげたらいい。
自分に素直になることは。
自分を認め信じること。
前を向いても。
後ずさりしても。
寄り道しても。
私はそっとページを閉じた。
画家であり作家でもある日下雫さんの本。
私のお気に入りの一冊。
絵も淡い色使いが温もりがあって。
細やかな筆遣いで、見ているものに語りかけてくれる。
憧れの人。
かな。
何よりも、日下さんの言の葉が、私に色んな養分をくれる。
そのおかげで、自分自身の想いを言葉に寄せて書くのが少しだけ楽しくもある。
私は机の引き出しの中から、ノートを取り出した。
日記を書いたり、その時の想いを綴っている、秘密のノート。
ページをめくって。
まっさらな紙面を見つめた。
頬杖をついて、ペンを握る。
あの頃の想い出も。
あの頃の笑顔も。
あの約束も。
今も。
こころでそっと静かに。
でも。
確かに時を刻んでいるの。
私は今になって。
気付きはじめたことがある。
あの時。
彼が言った。
好きな人いるの?
問いに答えられなかった私。
好きが分からなかったから。
あの頃の私は。
もし。
答えられたら。
未来は変わっていたの?
でも。
あの時。
初めてつないだ手。
手のひらから伝わる。
安心とトキメキ。
今も忘れてないよ。
だって。
覚えているのは。
約束を覚えているのは。
私だけかもしれない。
今なら。
言えるのかな。
好きです。
最後の震えている文字。
おかしくて。
唇を噛んだ。
カチカチと、ペンを鳴らして。
読み返して。
いっつも同じようなこと書いてる。
大きく息を吐いて立ち上がる。
カーテンを開けて見える冬の夜の街。
色鮮やかなその明かりは、星の数よりも多い。
窓ガラスにかかる息が、白い膜を張る。
私は息を吹きかけて。
その淡いキャンバスに指で名前を書いた。
ひやりと指先に伝わる冷たさ。
それはやがて、透明となって消えていく。
もう一度、息を吐いてキャンバスを作る。
さっきより大きく。
二人の名前を書いてみた。
煙のように。
ゆっくりと。
馴染んで消えた。
ぼんやりと外の光は滲んでいて。
私はそっと、カーテンを閉めた。
お読み頂きありがとうございます_(._.)_。
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