大きな木ノ上で
9月の終わり。
中学校の創立記念日。
高い空に夏のようなふんわりとして雲が漂っている。
今日はスカイツリーに来ている。
美瑠と一緒にやっているゲームのオフラインイベントがあるから。
かわいいキャラクターがたくさんいて、ゲームの世界を冒険できるんだ。
ついでに美瑠が私の誕生日が近いから何かプレゼントしたいって。
北万住からスカイツリーまでは電車で一本。
予め期日指定のチケットをお母さんに取っておいてもらった。
スカイツリーには何度か家族で来たけれど、展望台には行ったことがなかった。
エレベーターに乗ったら、耳がつーんとなって、美瑠の声が小さく聞こえた。
しばらくして直ったけど、なんか心地悪くて。
美瑠と手を繋いでいた私は、その手をギュッと握っていた。
ドアが開いて人の流れに紛れて進む。
「うわ、高い!」
「ほんとだ」
初めて見る眺め。
すっごく高くて下を見るのが少し怖いくらいだった。
風なんかないのにスカートの中に冷たい空気が入ってきたみたいで。
お腹がきゅってなった。
普段見上げるビルもみんな小さく見えて。
おもちゃのまちみたいだった。
遥か遠く遠くには――
富士山が青く霞んで見えて、あとは足元まで、ずっと街だらけ。
ビルが至る所にあって。
空は高くて広く見えるのに。
なんか、可哀そうって想ってしまった。
「あっちで、やってる」
美瑠に手を引かれながら目的のイベント会場へ。
ゲームのキャラクターやグッズが壁や至る所にあって。
私たちは写真を撮ったり、鑑賞したり、楽しんでいた。
「おーい。しんじ、まこと」
大きな声がして、私の脇を制服姿の男の子が二人。
駆け抜けて行った。
名残りの空気の流れの中に、お日様の匂いがした気がして。
ハッとして、その二人の後姿を見つめた。
けど、もう通路の陰に消えていた。
「どうしたの? 梨花」
「ううん。なんでもない。ちょっと……」
「誰かいたの?」
「ん? 別に」
気のせいかな。
いるわけないもんね。
鼻を吸ってみたけど。
何も感じなかった。
展望台から下りて、スカイツリーの根元にある商業施設を見て回る。
その中に、昔ながらの駄菓子を売っているお店があった。
「ねえ、美瑠、ちょっと寄ろう」
「わあ、お菓子の森だ」
目がきらきらする美瑠。
お店にはキャンディーやうまい棒、ベビースターにチョコやガムが所狭しと陳列されている。
「あっ」
冷蔵庫の中に見つけた。
扉を開いて、それを手に取った。
ビー玉が入った二つの窪みがあるラムネの瓶。
懐かしい重みと冷たさが手のひらに伝わる。
「なにそれ」
「美瑠も飲んでみて、おいしいよ」
ラムネとお菓子を買い込んで、近くのベンチで休憩。
私は美瑠がラムネに口をつけるのをじっと見ている。
「ん? 梨花、飲めないんだけど、不良品なんじゃない?」
頬が緩む私。
「美瑠、こうやって飲むんだよ」
私は瓶の窪みが中で山になっている間に、瓶を傾けてビー玉を引っかけて見せる。
「へー。梨花物知り」
真似をして美瑠がゴクゴクとラムネを飲む。
「うわー、おいしいね」
「でしょ? 初めてのラムネ百点だね」
カチン。
私は手にした瓶を美瑠の瓶に重ねた。
そして――
久しぶりのしゅわしゅわと甘さを口に含んだ。
全然変わらない味が喉を通り過ぎていく。
カラン。
ビー玉の音も。
両手で包んで、見つめるビー玉。
私の笑顔が揺れていた。
ポロン、ポロン……
ピアノの音色の誘われて。
やって来た、ちょっとした広場。
「最近多いよね、ストリートピアノ」
「うん。美瑠も弾いてみたら?」
「私が習ってたの小学校に入る前だよ、もう忘れちゃってるよ」
その時、するするとピアノに近づいた制服姿の女の子。
同い年くらいかな。
「なに弾くのかな?」
顔を寄せて囁く美瑠。
「なんだろうね」
ピアノを前に女の子はスマホをセットしていた。
そしてーー
鍵盤が紡ぐメロディが空間に反響する。
それは、馴染みのある曲だった。
TM NETWORKの『Human System』
お父さんとお母さんの影響で、小さい頃から、昔の曲を聞いていたから。
女の子の奏でるピアノの音は、柔らかくて、心地よくて。
聞き惚れていた。
美瑠の目を盗んで、スマホケースから、小さなパウチを取り出した。
そっと指先で中に閉じ込めた白い花びらを撫でる。
あの夏の日の、風や日差し。
匂いまでもがよみがえってくる。
ピアノの音色が柔らかく伸びて。
曲が終わった。
「ん? 梨花何それ?」
「ん? 何でもないよ、ピアノ上手だったよね」
すっと、パウチをスマホケースに忍ばせた。
パチパチと拍手を送る私。
美瑠も首をかしげながら手を叩いていた。
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