美瑠の恋
中学生になって、初めての夏休み。
今日は美瑠の家に泊まりに来ている。
「ねえ、梨花」
「どうしたの?」
ここのとこ元気がない美瑠。
学校でも、遊んでいても、どこかぼーっとして。
ため息をついたりしている。
「あのさ……」
もじもじと組んだ指先を動かして。
私を見ては、うつむくを繰り返す。
私は、腰を上げて膝立ちで、トントンと美瑠に近寄って、隣に座る。
そして、美瑠の手に私の手を重ねる。
少しだけ冷たい手。
「あのね、私さ、駿介くんのこと好きみたいなんだ」
美瑠は、肩を寄せ縮こまって、ほっぺを真っ赤にしている。
「うん。そんな感じはしてたよ」
「え?」
ひゅっと、こっちを向いた美瑠。
「小学生の頃から仲良かったし、ずっと見てるよ駿介くんのこと」
「そう……なんだ」
「いいじゃん。美瑠と駿介くん、お似合いだと想うよ」
「ホントに?」
重ねた私の手を両手でぎゅっと握って、大きく目を見開いて顔を寄せてきた美瑠。
でも。
すぐに肩を落として。
握った手も力なく落ちた。
「なんかさ、昨日さ、駅ビルで駿介くん、見かけたんだけどさ……」
「うん」
「女の子と一緒でさ、楽しそうだったんだよね」
「うん」
「好きなのかなって、その子のこと。彼女かなとか、色々考えちゃってさ」
「うん」
「でもでも、全然好きでさ、ずっと、モヤモヤしてる」
「そっか」
「でさ、なんかさ駿介くんも私のこと好きなのかなって、勝手に想ってて、でも、分かんなくてさ」
「うん」
「この気持ちどうしたらいいんだろ?」
「そうだね……」
片手をそっと、胸に当てる私。
私なら……
10歳の頃の私は、シンくんのことが好きなのか分からなかった。
今は?
会いたいって。
想ってることが、好きってことなのかな。
あの5日間の想い出は、今もこころの中で大切に息をしている。
「梨花? 聞いてる?」
「ん? 聞いてるよ。美瑠は好きなんでしょ?」
「もちろん」
「じゃあ、ここは美瑠らしくいこうよ」
「私らしく?」
「そう。美瑠らしく。好きって言ってきな」
「は?」
大きな口を開けて、首をかしげて固まった美瑠。
「美瑠はちゃんと、私に言ってくれるよ、元気ないときもそうじゃない時も、美瑠が感じていることを包み隠さず」
「だって、それは梨花だからだよ」
「そだね、でもさ、ここで悩んでる美瑠もかわいいけど、ちゃんと駿介くんに想いを伝える美瑠が私の知ってる美瑠だもん」
「梨花……でもさ……」
「もしもだよ、もし、駿介くんに振られたら、私がそばにいるから。それじゃダメ?」
「ううん。振られなくても、そばにいて」
「もちろんだよ。私だって美瑠のそばにいたいし、そばにいてほしい」
「うん」
私は美瑠の手を取って立ち上がる。
そして--
美瑠の胸元に手を添えた。
美瑠は私の胸元に。
そして、おでこをコツンと重ねる。
お互いの体温と今日は同じシャンプーの匂いが混ざる。
「美瑠、私は何があっても美瑠の味方だよ。大丈夫だよ、駿介くんのこと。きっとうまくいくから」
「うん。頑張る。ありがとう梨花。梨花がいてくれてよかった、話し聞いてくれて、楽になった」
私はそっとおでこを離すと、美瑠の前で、人差し指を立てた。
首をひねり指先を見つめる美瑠。
「一つだけ。美瑠はすぐに感情的になるから、悪いことじゃないけど、好きを伝えたら、ちゃんと駿介くんの返事を急かさずに聞くんだよ。すぐに返事がこなくても慌てない」
「うん。分かった。言う通りにする」
「よろしい。素直な美瑠はかわいい」
「何それ? 素直じゃないみたいじゃん」
クスクスと笑う私。
「なぁに、梨花?」
「美瑠が戻ってきて、うれしいんだよ」
「え?」
「恋なんだなぁって。想って……」
「もう! でも、ありがとう」
美瑠は、コツンとおでこを合わせてきた。
「ありがとう。梨花。これからもずっと、一緒だよ」
「うん。ずっと一緒だよ。私たちは」
こころの中からわいてきた笑顔が、声となって響く。
微笑む美瑠を見ながら、
「美瑠の恋は叶うよ。駿介くん、美瑠のこと好きだからきっと」
なんの脈絡もないけれど、そんな言葉が口からこぼれていた。
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