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約束の木の下で ―欠片―  作者: ぽんこつ


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青いままの空

卒業式も終わって。

絵奏ちゃんと教室に戻って来た。

差し込む陽射しが。

クラスメイトたちを柔らかく照らしていて。

喧騒を纏う室内は。

しんみりとした別れより。

揚々たる旅立ちに華やいでるように見えた。

「梨花ちゃん、写真撮ろ」

「いいね」

「じゃあ撮るよ」

絵奏ちゃんが構えたスマホに向かって。

ピースサインと丸筒を笑顔に添える。

カシャッ。

「どれどれ」

絵奏ちゃんはスマホをひっくり返す。

微笑む2人の女の子。

「よく撮れてるね」

「後で送るから」

「ありがとう」

「梨花ちゃんと出逢えて、楽しかった」

「なあに? もうお別れみたいな言い方」

「違うの。ちゃんと伝えたかったんだ。ありがとうって」

「それは、私だって同じだよ。ありがとう絵奏ちゃん」

「私一人だったからさ、中学からここに進学したの。どうなるかなって想ってたんだ高校生活」

「まあ、私も似たようなもんだよ」

「大学でもよろしくね」

「こちらこそ」

「じゃあ、ちょっと久世くんのとこ行ってくるね」

「うん。後でね」

くるりと身を翻し。

スカートを舞わせて。

絵奏ちゃんは、ちょこちょこと駆けていった。


私はリュックに丸筒をしまう。

「先輩」

「ん?」

振り向いたら、文芸部の後輩。

2年生の川崎まどかちゃんが、一冊のノートを手に立っていた。

「あの、先輩。私と写真撮ってもらえますか?」

「いいよ」

「ありがとうございます」

まどかちゃんは、長い髪を宙に踊らせて。

深々とお辞儀をする。

私は、しまった丸筒を取り出した。

「じゃあ、撮りますね」

カシャッ。

まどかちゃんは、スマホを見て。

唇を結んで。

えくぼを浮かべた。

「ありがとうございます、先輩」

「後で、写真送ってくれる?」

「はい!」

しゃきっと背筋が伸びて。

私に向けて。

くっと、ノートを差し出した。

「あの、これ読んでもらえませんか?」

「うん。分かったいいよ」

私はノートを受け取る。

まどかちゃんは。

すごく繊細で。

感受性があって。

優しい文章を紡ぐ。

私みたいな趣味ではなくて。

小説家になりたいという夢を持ってる子。

私なんかより数段、素敵な言の葉を綴るのだけど。

どういう訳か、私の文章を気に入ってくれている。

だからなのか。

新作を書き上げると。

まず私に感想を聞いてくる。

「ありがとうございます」

「もう、そんなにかしこまらなくていいよ」

「はい!」

ペロッと舌をだして。

小さくうなずいた。

「じゃあ、失礼します」

「読んだら、連絡するね」

「はい!」

まどかちゃんは、何度も振り返り。

えくぼを見せたまま。

廊下の向こうに姿を消した。


私はノートと丸筒をリュックにしまう。

「倉科……」

あっ。

宮本くんの声。

「なあに?」

手にしたスマホをふらふらさせながら。

頭の後ろをかいている宮本くん。

開きかけた口元を引き締めて。

息を呑んでいた。

「いいよ」

「え?」

「写真でしょ?」

「悪いな、ありがとう」

「ううん」

私は丸筒をリュックから取り出す。

スマホを構える宮本くん。

「撮るよ」

「うん」

カシャッ。

宮本くんは、スマホの画面を見つめて。

ふわりと目尻を下げた。

「うん、よく撮れてる。ありがとうな」

「どういたしまして」

「あ、良かったら写真……」

私は首を振る。

「悪い。俺もこれを想い出に踏ん切りつけるよ」

「……そう」

「倉科の……倉科を惚れさせた男、見てみたかったよ」

私ははにかんで首を捻る。

「ごめん。じゃあ、ありがとう。元気でな」

「うん。宮本くんも、バスケ頑張れ」

小刻みにうなずいて。

宮本くんは、小さく手を上げて。

教室を出ていった。


私は丸筒を胸に抱えて。

窓の外を見上げた。

ふわふわな雲たちが。

漂うにぎやかな空。

その合間を。

きらりと機体を光らせて。

飛行機が。

長い長い。

一本の白い雲を連れていた。

そっと。

私の頬を撫でる風が。

少し冷たかった。

肩で一つ。

息を落として。

ゆっくりと窓を閉めた。


お読み下さりありがとうございます。

感謝しております。

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