あの夏
暗天から降り注ぐ雨。
窓ガラスいっぱいに滴をつけて。
部屋の明かりを弾いている。
天気のせいか。
予定もないせいか。
気だるい休日の午後。
イヤホンから流れるアン・マリーの『2002』。
最近、よく聞いている。
感傷的で郷愁を感じるメロディと歌声が気に入っている。
歌詞の中の恋人同士ではないけれど。
あの夏を想い出して。
たった5日間のことなのに。
私のこころに染み着いて。
剥がれない。
18歳になって。
もうすぐ高校も卒業。
約束の時は、これから二回目の夏が来たとき。
文芸部に入ってたお陰で。
素敵な言葉たちにも出逢うことができた。
例えば。
葉隠れに、散りとどまれる、花のみぞ、忍びし人に、逢ふ心地する。
こんな歌を綴ってみたいなって。
昔の人は。
ふと目にした。
何気ない日常の風景や出来事に。
言の葉の調べを奏でていた。
今と時の流れの早さが違うような。
しとやかな豊かさを感じたりもする。
別に今の時代に不満はないけど。
対話するゆとりがないのかな?
そう想ったとき。
あの夏の日が重なるんだ。
過ごした時間はわずかで。
それこそ。
楽しくてあっという間だったのに。
一緒に刻んでいたときは。
光も。
雲も。
生き物たちも。
風も、
波も。
食べ物たちも。
花も。
土も。
笑い声たちも。
ゆったりと時間に溶けていたように想う。
でなければ。
一欠片、一欠片。
覚えていないように想う。
本屋さんのアルバイトで。
夕凪島に行けるくらいのお金は貯まった。
予約サイトで色々調べたけれど。
どうしてなのかな。
行くことが怖い自分がいる。
会いたい気持ちは変わらないのに。
妄想の賜物だと分かっていても。
あと二回目の夏が来れば。
訪れるんだから。
そんなせめぎあい。
そんな時はいつものように。
ノートに想いを綴る。
立ち上がって。
窓の外を眺める。
家々や街灯の灯りがぼんやりと浮かんで。
濡れたアスファルトを車のライトが淡く白く照らしていく。
彼がどんな姿になってるのか。
想像してみたりする。
きっとかっこいいんだろうな。
想いのバイアスや多少盛ったりするのを差し引いても。
もてるだろうなって。
想う。
私はどうかな。
あの頃。
彼が言ってくれたように。
かわいいかな。
いっぱい話したいこともあるよ。
一番星が見えたことも。
中学の修学旅行で赤穂御崎から見た夕凪島と夕陽のことも。
親友の美瑠のことも。
巻き貝も。
ぬいぐるみも。
日日草も。
大事にしてたよって。
でも――
会えたら、きっと泣いちゃうんだろうな。
私。
「梨花、おやつ食べる?」
「はぁい」
窓ガラスに映る私の頬を滴が一筋伝った。
お読み下さりありがとうございます。
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