巡る
「ふー」
私は、ベッドの上で膝を抱える。
カーテンの隙間から漏れる頼りない明かりが。
暗い部屋の中の輪郭を、ぼんやりと浮かび上がらせている。
ブーン……
エアコンの音がぬくもりを敷き詰める。
「はあ……」
どこを見るわけでもなく。
見つめた視線の先。
机の上には開いたままの雑誌がある。
美瑠や絵奏ちゃんを見ていると。
私もって。
想うこともある。
でもさ。
こころを占める。
彼のことを忘れられないし。
忘れたくないし。
でもさ。
最近、とりとめのない不安が募る。
時の残酷さを感じるんだ。
あの頃は、なんの不安もなくて。
疑いもせずに。
10年後の再会を約束した。
会えるって信じてたし。
歳月なんかあっという間だって。
でもさ。
やっと折り返しの夏が過ぎて。
もう少しのはずなのに。
ここまで。
想いを信じて。
自分を信じて。
でもさ。
彼はどうなんだろうって。
不安って厄介なもので。
なんの根拠もないことを。
次から次へと運んでくる。
彼は約束のことなんて覚えていないんじゃないか。
かわいい彼女が隣にいて。
私のことなんか忘れてしまって。
その子と笑い合ってて。
欲しくもない妄想をさせるの。
でもさ。
実際、その時に。
居なかったら。
なんて。
でもさ。
私の中の想い出も。
彼への想いも。
そのまんま。
会いたい気持ちも募る。
やっかいなんだよね。
この堂々巡り。
トホホだよ。
ベッドサイドのクマのぬいぐるみを手にした。
年を重ねる毎に。
毛並みはごわごわしてきて。
耳なんかくたびれて。
でもさ。
黒い瞳はあの頃のまま。
なんだよね。
うねりのような。
潮騒のような。
あの時のブランコのように。
行ったり来たり。
ふとした瞬間に。
甦っては。
せめぎ合う。
出来るのなら。
行きたい。
けど、行けない。
現実と想いの狭間で。
ぬいぐるみを抱き締めた。
そう。
去年の夏休みから始めた、本屋でのアルバイト。
今日、そこで見つけた夕凪島の旅行特集の雑誌。
そういう雑誌自体は部屋の本棚にいっぱいあるし。
関連するサイトやブログなんかも、目にしたりしている。
観光スポットはいくつもあるようだけど。
私はその景色の中に、彼の姿を探してしまう。
もしかしたら。
って。
でもさ。
どれを見ても。
変わらないの。
高い空に。
凪の水面。
青も緑も色濃く鮮やかで。
でもさ。
今日見た雑誌。
正確には今、机の上に広がっているページには。
坂手の港と。
懐かしい風景が載っていた。
一目見て。
分かったよ。
高台の公園からの景色だって。
ブランコは映ってなかったけど。
写真を眺めているだけで。
いとも簡単に。
時空を飛び越えて。
タイムスリップ出来てしまって。
そこから。
ずっと、迷路に迷い混んで。
さまよっている。
あの木枯らしの日以来。
夢も見ていなくて。
どうしてなのかな……
私はぬいぐるみの鼻を。
ちょんと、つついて。
枕元に寝かせた。
もぞもぞと布団に潜り込んで。
瞼を閉じた。
せめて。
夢で。
会えますように――
お読み頂きありがとうございます。
感謝しています。
*時系列的にこの後は「約束の木の下で―心友―」のお話になります。




