憩いの場
窓の向こうは。
じりじりと陽射しが街並みを照りつけ。
どこか、陽炎のようにぼんやりとしている。
もくもくと漂う白い雲は、気の向くまま優雅に我が物顔。
エアコンの効いた室内は少しだけ肌寒い。
埃の匂いが染み付いた図書室。
窓際の角のテーブル。
部室のない文芸部の指定席。
部員は私を含めて10名。
一年生は私と高宮くんという男子生徒。
でも、どうやら高宮くんは幽霊部員らしい。
実質、稼働しているのは。
部長の朝倉勇樹先輩をはじめとした、いまこの場所にいる四人。
部活動をしだして。
本格的に小説を書き始めた。
まだ、短編が中心だけど。
ゆくゆくは?
長編も書いてみたい。
かな。
もちろん。 私の想いを綴った作品は公にする気はない。
「倉科さんは、筋がいい。テーマを持って書いてみたことはある?」
前の席の朝倉先輩が眼鏡のブリッジを人差し指で押し上げた。
「テーマですか?」
「そう。語弊があるが、何でもいい。作品として何を伝えたいか。それに沿って人物の設定やプロットを考えた方がいいと思う」
「朝倉の言うことは気にしない方がいいよ。梨花さん。プロット作りだけが上手くなって、肝心の作品はいまいちなんだから、設定倒れの朝倉勇樹だから」
「いやいや、いやでもないか。そういう椋梨さんだって、設定作らずに書き出すから迷宮の椋梨じゃないですか」
「ちょっと先輩方。新人の梨花ちゃんが戸惑ってますよぉ。ねえ?」
頬杖をついて。
気だるそうな栗原先輩。
「おやおや、自分だけまともみたいな言い草だね。タイトルが、やたら長いだけの栗原さん」
「別に私は長くしたいわけじゃないんてすよぉ。流行りに乗ってるだけですから」
「流行りか。華音ちゃんが、本当に書きたいものってなんなの?」
「私ですかぁ? 時代物かなぁ。ほら、私のことより梨花ちゃんでしょう。貴重な文芸部の後継者なんだから」
「ふむ。確かに、で。どうなんだい?」
「ん?」
「ペンネームだよ梨花さん、ペンネーム決まったの?」
「あ、まだです」
朝倉先輩の話題は飛ぶことが多い。
春一番のように過ぎ去って。
そのままどこ吹く風。
そんな朝倉先輩のペンネームは。
リューク・ローゼンバーグ。
どこかの王子様みたいな名前。
椋梨先輩は、宵宮舞都里。
名は体を表す。
情熱的で感情豊かな文章を書かれる。
栗原先輩は、紫零。
長閑で。
切迫もなくて。
ゆるゆるな感じが、私には合っている。
というか。
居心地がいい。
新参者の私にとっては。
おこがましいけど。
みんな文字に想いを託す仲間だから。
「梨花さん。ペンネームは、ゆっくり考えたらいいよ、それより感想会でしょ今日は」
椋梨先輩の一言で。
本題に入る。
傾きはじめた太陽が。
テーブルの上に陽だまりを運ぶ。
ぽかぽかとしたぬくもりも。
ちかちかと埃が光を弾いて。
あっ。
陽向笑なんて。
いいかも。
ペンネームだったら。
自分じゃないものが書けるかも。
私は顎の下にペンを当てながら。
宙を見据えた。
お読み頂きありがとうございます。
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