表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
約束の木の下で ―欠片―  作者: ぽんこつ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

19/28

出逢いの季節

中学から明星学園に進んだのは、私を含め三人だけ。

二人とも女子だけど。

顔見知り程度。

学校までは電車を乗り継いで40分位。

朝の混雑は慣れない。

特売日の野菜みたいに。

ぎゅうぎゅう詰めになる。

仕方のないことだけど。

通勤ラッシュの先輩。

お父さんに相談したら。

始発電車に乗るか、少し早く出たらとアドバイスしてくれた。

時間を調べたら。

いつもより10分前に北万住始発の電車があった。

それに乗るためにも並ぶの。


世の中は明日からゴールデンウィーク。

私は学校帰り、遠回りだけど寄り道することにした。

学校から新宿までは約30分。

新宿は、通勤ラッシュほどではないにせよ。

人だらけ。

でも。

制服で歩いていると。

なんだかお姉さんになった気分。

建物がない道路の上。

霞んだ空。

目的地は『阿波国屋書店』。

大きな本屋。

中学の頃、家族で来たことがあって。

圧倒的な本の数に興奮していた。

今、特に目当ての本はないけど。

紙やインクの匂いに囲まれて。

ふらふらとしながら。

ふとした出逢いを探しに。


「あれ? 梨花さん?」

「え? 駿介くん?」

「何やってるの?」

二人の声が重なる。

どちらからともなく笑いだす。

私はお先にと、手を差し出す。

「あ、友達と待ち合わせててね、あっ、もちろん男だよ」

そんなの分かってるのに。

口にしてしまうのが駿介くんらしい。

「私は、本屋さんに」

駿介くんの背後を指差した。

「なるほど、梨花さん読書家だもんね」

駿介くんの視線が上下に動く。

「明星の制服、似合ってるね」

「ありがとう。駿介くんも、似合ってるよ。あっ、でも私以外にそういうこと言わない方がいいよ」

「そうだね、って、そもそも他の子には言わないから」

頭をかきながら、バツが悪そうに微笑む駿介くん。

「美瑠には……」

そう言いながら。

人差し指を口に当てて。

冗談っぽく笑う。

私は目を閉じながら。

大きくうなずく。

「じゃあ駿介くん、またね」

「じゃあね、梨花さん気をつけて」

「ありがとう。駿介くんも」

小さく手を振って歩き出す。

まさか、こんなとこで会うなんて。

世間は狭いんだね。

壁にある館内の見取り図を見て。

文学、文庫・新書は2階かな。

そばにあるエレベーターのボタンを押す。

数人のお客さんと乗り込んで。

チン。

甲高い音が扉を開ける。

一歩踏み出せば。

沢山のまだ知らない世界が。

所狭しとひしめき合っている。

とりあえず。

壁際から順に見ていくことにした。


お気に入りの作家さんの本とかは、何度も読み返している。

日下雫さんや、外畑隆夫さん。

ジャンルこそ違えど。

私のこころに紡ぐ言葉が届いて。

温度や情景や空気感が頭に浮かぶ。

棚の間をゆっくりと進んで。

ふと視線を落とした面陳。

『落人伝説殺人事件』

外畑さんの作品が目に入った。

本を取ろうと手を伸ばして。

脇から出てきた指先が私に触れて。

慌てて手を引っ込めて。

胸の前でその手を包んだ。

「あ、ごめんなさい」

声の主はグレーのブレザー姿の男の子だった。

「こちらこそ、ごめんなさい」

「あ、あのどうぞ」

「いえ、お先に」

私は小さく手を差し出した。

「じゃあ、急いでるから遠慮なく、友達と待ち合わせてるんで」

男の子は本を取った。

そして、私を見て瞬きをする。

「あの、何か?」

「あ、いや……どうも、ありがとう」

首を手でさすり、苦笑う男の子。 

そして、私に頭を下げて。

歩いていった。

「ふっ……」

肩を落として。

首をかしげる。

私も本を手に取った。

胸に抱えながら。

本の森の探検を続けた。

お読み頂きありがとうございます。

感謝しています。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ