誰そ彼、彼は誰
衣替えも終わって。
街路樹の葉が寒さに頬を色めかせ始めた。
そんな、ある日の放課後。
昇降口で待っていた美瑠。
私を見つけるなり。
「ちょっと、梨花聞いて!」
ぶんすか。
ぷりぷり。
ぷんぷん丸な美瑠。
機嫌が悪いのは。
大概、駿介くんとけんかしたからなんだけど。
聞いてと言う割に。
校門を出ても。
何も話さない。
「どうしたの?」
って。
質問にも。
むすっとして。
膨れたまま。
あれ?
今までとは違う感じかも。
私はつないだ手に力を込めた。
ぴくりとした美瑠。
「ねえ美瑠? ちょっと寄り道しよう」
え?
って。
声に出なかったけど。
開いた口が答えていた。
コクりとうなずいた。
かく言う私も思いつきで出た言葉。
どうしようかな。
道路脇の家々や電柱の影が伸びはじめていて。
ひやりとする向かい風が髪を払っていく。
淡く黄色に染まる空を見上げた。
交差点で立ち止まる。
!
ひらめいた私。
美瑠の手を引いて歩き出す。
少し先にある歩道橋を目指した。
階段を上がり始めると、
「梨花、何やってるの? わざわざここで渡らなくてもいいのに」
やっと口を開いた美瑠。
「寄り道だよ」
私は微笑みを返す。
眉を寄せて。
不思議そうな美瑠。
「こないだね、見つけたの。きっと今の時期だけなんだ」
美瑠は私の声に首をかしげる。
てっぺんまでのぼって。
私は美瑠と向き合う。
眩しくて目を細めて微笑む。
「美瑠。目閉じて」
「なんで?」
「いいから」
つないでない方の美瑠の手も握る。
小さく一つ。
吐息が漏れて。
「はーい」
美瑠は目を閉じた。
「ちょっと引っ張るけど、私がいいよって言うまで目閉じておいて」
黙ってうなずく美瑠。
ゆっくりと後ろを気にしながら。
美瑠を引っ張る。
ちょうど歩道橋の真ん中辺りで立ち止まった。
私は片手を離して。
美瑠の片手を欄干に乗せた。
行き交う車の音が前後に抜けていく。
すでにライトを灯した車両もいて。
所々、白と赤が交錯している。
目を閉じていても。
眩しいのか眉間にしわを寄せる美瑠。
「いいよ。目開けてみて」
ゆっくりまつ毛が上がって。
すぐに目を閉じて顔を背けて。
手をかざしながら。
再びまぶたを開ける。
みるみる、瞳は大きく。
口も開いて。
「……きれい」
こぼれた小さな声。
「でしょ?」
私も道路の先に視線を移す。
金色の真ん丸なお日様が。
私たちに照れるように。
周囲を真っ赤にして。
凸凹のビルの影の向こう。
ずっと向こうに隠れて行こうとしている。
私はつないだ手に力を込めた。
「美瑠、何があったか分からないけどさ、美瑠が何を想っても、話しても、美瑠のことは一ミリも嫌いになんかならないよ」
「……うん」
ブーン……
ブルルル……
せわしないエンジンの声の中に紛れ込んだ小さな美瑠の声。
「だから、私には言っちゃいな。私と美瑠は親友でしょ? 違う?」
首を振った美瑠の髪が私の頬と首筋をくすぐった。
「私は、美瑠のことは、心からの友達。心友だと想ってるから」
「……私だって」
今度ははっきり耳に届いた声。
「あのね……」
美瑠はゆっくりと言葉を吐き出した。
聞いてみたら。
大したことのないようにも。
大したことのようにも。
想えること。
少しの言葉のズレや。
想いの加減のズレ。
それだけ想いが強い証でもある。
私には恋愛に関して。
何か言葉を送ることは出来ない。
経験がないから。
でもね、美瑠の気持ちには誰よりも寄り添える自信はある。
だから、話を聞いてあげることしか出来ない。
でもね、私は願っているし。
祈っているよ。
美瑠が笑顔で幸せに過ごせますようにって。
美瑠は想いが、つい言葉に出ちゃう。
駿介くんも、そんな美瑠が好きなのは分かってる。
自分の想いも相手への想いも。
二人とも似ているかな?
そう想った。
「どう想う?」
美瑠の瞳は潤んでいた。
「そうだね。もう少し素直になれたらいいと想う」
「だよね! 駿のやつ」
私は美瑠の鼻を摘まんだ。
「美瑠もね」
「へ?」
「素直に言葉を伝えてごらん? たまには。素直な美瑠はかわいいんだから」
「もう、梨花ったら」
口をすぼめて。
上目遣いに睨む美瑠。
けれど。
目尻がやんわりと下がる。
「分かったよ……」
「うん。よろしい」
冷え込みを連れてきた風が首をすくめさせる。
手で髪を押さえながら。
「でも、私はそんな美瑠が好きだよ」
「ありがとう。私も梨花が大好きだよ」
美瑠は鼻にしわを作って。
イーって笑って見せた。
その顔に、車のライト差し込んでは消えたいく。
夕焼けはあっという間に終わる。
きっと、今も一番星がどこかで瞬いている。
私の中の想いも――
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