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約束の木の下で ―欠片―  作者: ぽんこつ


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13/28

きっかけ

中学生最後の夏休みも今日で終わり。

私は美瑠と近所のファミレスに来ている。

お互いの家以外で、おそらく一番美瑠と過ごしている場所。

お気に入りのデザートのショートケーキを食べて終わって。

ジュースのストローに口をつけた。

美瑠と目が合って。

口を開きかけた美瑠は口をすぼめてうつむいた。

「ん? 美瑠どしたの?」

「ああ、うん。私さ、将来パティシエになりたいなって想ってるんだ」

「へー。いいんじゃない、美瑠が作るお菓子美味しいもんね」

「ふふん。ありがと」

両腕をテーブルに乗せて。

顔をつき出した美瑠。

ふわりと頬が上がる。

「でもね、きっかけをくれたのは梨花なんだよ」

「え?」

首をかしげながらグラスを置いた。


美瑠はすっと体を引いて。

背筋を伸ばす。

「小学校6年生の時、私の誕生日にクッキープレゼントしてくれたの覚えてる?」

「うん。もちろん」

「そのクッキーが美味しかったの。手作りっていいなって」

「そっか、でも、私の誕生日に美瑠がくれたクッキーのが美味しかったよ」

「そう、そう言ってくれたでしょ? だからきっかけは梨花なんだよ」

「だって、本当に美味しかったよ」

「ありがとう」

美瑠は鼻にしわを寄せて。

いーっと笑う。

微笑みがほどけて。

耳に髪をかけた。


「だから、その、私ね、家政科のある、東城高校に行きたいなって考えてる」

「そっか。いいと想う」

「うん。ねぇ、梨花は? 高校どうするの?」

「うーん。正直考え中。なんか迷ってるのかな」

「なになに? 話してごらん」

「うーん。私さ、本好きでしょ?」

「うん」

「それでね、小説とか書いてみたいなって。少しずつ書いてるんだけど」

「え? 小説家?」

私は両手を顔の前で振る。

「ううん。違うよ、その本に携わる仕事もいいのかなって。それこそ本屋さんとかでもいい」

「本か。梨花が好きなことなら応援する」

「ありがとう。東城高校か。近いしいいよね。制服もかわいいし」

「なら、梨花も東城にしようよ」

「そうだね。美瑠と一緒がいいもんね」

「うん。でさ、バイト出来るようになったら、駅前の『ビスケットの中』でで、しようかなって考えてる」 

「わあ! いいね! あそこのケーキもお菓子も美味しいもん」

「ああ、私のことはいいんだ。梨花のことだった」

両手を振って。

苦笑う美瑠。

「全然大丈夫だよ。私も本屋でバイトしてみようかな」

「うん。いいかも、図書館とかは? バイトないのかな?」

「図書館か……」

腕を組んで頬を膨らます。

本が好きと言いながら。

図書館は利用したことがなかった。

それこそ、学校の図書室は足しげく通ってるのに。


「梨ー花」

「ん?」

「どしたの?」

「うん。そう言えば、図書館って行ったことないなって」

首をかしげ、肩をすくめた私。

「そうなんだ? 今度行ってみる?」

「そだね」

美瑠は舌なめずりをして。

にやりと細い目で私を見つめた。

「ねえねえ、梨花が書いた作品。今度見せてよ」

「え? いいけど……」

髪を耳にかけて。

グラスを手に取った。

一口吸っただけで。

ズルズルとストローは音を立てていた。

戸惑いの原因は。

そうなんだ。

ほとんどが私の想いを言葉にしたもの。

彼への。

関係なくしたためた物でも。

どこかで雰囲気が滲んでる気がして。

でも――


「見せたくない? 嫌ならいいよ。梨花が見せてもいいって想えた時でも」

口を尖らせて。

タコみたいな美瑠がかわいくて。

「ううん。じゃあ、美瑠だけだよ」

「やったー!」

美瑠は目を閉じて。

両手を挙げた。

「でさでさ。どんなの書いてるの?」

「あ、うん。色々かな」

「恋愛ものはないの?」

「あるにはあるけど……」

「見たーい。じゃなくて読みたい!」

まだ何もしてないのに。

体を揺すっている美瑠。

その姿を見ていたら。

私のこころの奥の想い。

それを伏せた物なら。

「じゃあ、今度家おいでよ」

「楽しみ~」

そっか。

美瑠は将来のこと。

好きなこと。

やりたいこと。

見つけたんだ。

私が好きなこと。

やりたいことって。

なんだろう?

「高校も一緒になったら最高だね」

テーブルの上に。

すーっと差し込んだ陽射し。

カラン。

グラスの氷が揺れて。

弾けた光が。

小さな。

本当に小さな虹を描いていた。

お読み頂きありがとうございます。

感謝しています。

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