舞って。弾けて。流れて。
先週、美瑠の従姉の宥羽ちゃんに会いに、隣の区にある帝釈寺に行ってきた。
私も美瑠も浴衣姿で。
浴衣に袖を通したのは――
あの時以来だった。
同い年の宥羽ちゃんは、盆踊りが、とっても上手で。
浴衣も似合っていて。
かわいいし素敵だった。
しかも宥羽ちゃん、盆踊りコンクールで優勝したんだ。
宥羽ちゃんの踊りって。
動きの一つ一つ。
指先や足の先まで。
しなやかで。
なめらかで。
何よりも、すっごく楽しそうに踊るんだ。
私も美瑠も盆踊りは、あまり踊ったことがなくて。
最初は戸惑ったけど。
太鼓の音色に合わせて体を動かして。
汗をかいていると。
とても清々しくて。
地元の子じゃないのに。
知らないおじさんやおばさん。
子供たちが声をかけてくれて。
初めて行ったのに。
ほっこりして。
ほわほわして。
懐かしい空気だった。
今日は夏の終わりを告げる地元の花火大会。
浴衣は着てないけど。
土手の斜面に腰かけて。
出店で買った、たこ焼きを美瑠とつついている。
小さい頃は、お互いの家族と一緒に見に来ていた。
でも、親たちが仕事で都合がつかなくなって。
ここ数年は、美瑠と二人で見に来ている。
空はもう花火を彩る準備は整っていて。
対岸の高速道路には、赤と白のライトの列が整然と並んでいる。
足元の草を揺らす風は、わずかにひんやりとして。
ゴーっと。
鉄橋を渡る電車の音を連れてくる。
「美味しい」
美瑠は頬を膨らませている。
「駿介くんと見に来ればよかったのに」
「え? なんで? 花火は梨花と毎年見るのが決まりみたいなもんじゃん」
「そうだけど。好きな人と見たら想い出にもなるかなって」
「もう。梨花と見たいの」
美瑠は、私の二の腕をちょんとつねる。
「ごめん。私だって美瑠と見たいよ」
「だったら、そういうの言わなくていいの。そのさ、梨花の気持ちは嬉しいけど」
「うん」
私もたこ焼きをもぐもぐ。
「なんかさ、分かんないけど、小さい頃は、家族みんなで見に来てたじゃん」
ペットボトルのジュースを飲んだ美瑠。
「そだね」
「でも、なんだかんだ理由があって、それも出来なくなっちゃったでしょ?」
「確かに」
「だからさ、なんだろ、出来ることはしたいなぁって想うんだよね」
「ふーん。美瑠の言いたいこと分かる」
「ふふん。でしょ?」
「うん。いつかは一緒に見れなくなるかもしれない。大人になって仕事とかしだしたら。でも出来る時はしようってことだよね」
「そだよ。私は梨花もお父さんもお母さんもおじさんもおばさんも、みんな好き」
「私も同じ、美瑠もお父さんもお母さんもおじさんもおばさんも好き」
「ああ、駿介くんも好きだけど」
ばくっと、たこ焼きを丸ごと口に放り込んだ美瑠。
「ふふ。そだね」
「梨花は好きな人いないの?」
「へ?」
裏返った声。
「いるんなら、応援したいなあって」
「そっか、ありがとう」
ドンッ!
音ともに歓声が上がる。
「はじまった」
弾ける美瑠の高い声。
次々に打ち上がる色鮮やかな花火。
咲き誇る花火の群れに。
拍手や感嘆がわく。
ドンッ。
ドンッ。
微かに空気を震わせて。
お腹に響く音。
「すごいねー」
隣に座っていた女の子の声。
ふと視線を移すと。
あっ。
その子が手にしていたビニール袋の中に。
一匹の金魚。
花火の明かりに照らされ。
きらきらと体が淡く光る。
口をパクパクさせ、尾ひれを動かす姿。
「ひかり……ちゃん」
ドンッ。
ドンッ。
風が髪を追い越して。
私は頭を押さえた。
あの夏の日。
お祭りの夜。
金魚すくいで掬えなくて。
お店のおじさんが、サービスって私にくれた一匹の金魚。
彼と一緒に花火を見て。
名前をつけて。
私よりちゃんと育ててくれそうで。
彼にプレゼントした。
――ひかりちゃん。
瞬間、音が消えて。
胸がきゅうって。
私はTシャツの胸元を握りしめていた。
二人だけで並んで見上げた花火。
風や虫の声。
草の匂いが、記憶から立ち上ってきた。
シンくん。
ひかりちゃん――
「梨花?」
ハッとして。
美瑠を見た。
「梨花、どうしたの?」
「ううん。なんでもないよ」
声は掠れていて。
ドンッ。
ドンッ。
「なんでもなくないよ」
美瑠は、いつの間にか手にしていたハンドタオルを私の顔の前に差し出した。
「え?」
瞬きした瞬間に、頬に温かいものが這っていく。
あわあわした私は、咄嗟に指先で拭う。
「もう」
美瑠はそんな私を見かねて。
ハンドタオルで私の顔を拭う。
ドンッ。
「どしたの? なんかあったの?」
「なんか、寂しくなったのかな」
「もう。梨花は考えすぎるところあるからね」
ちょんって私の鼻をつまむ美瑠。
「え? それは美瑠だって同じだよ」
ドンッ。
ドンッ。
ドンッ。
美瑠の顔を照らす。
青。
赤。
金色。
ゆっくり頬が上がって。
白い歯を見せた。
私も自然と笑っている。
ドンッ。
「わっ! 見て梨花」
美瑠が空を指差した。
その先には。星やハートの形をした花火。
さらにはアニメのキャラクターを象った物まで。
そっと私の腕に抱きついてきた美瑠。
「梨花、私はずっとずっとそばにいる。大丈夫だよ」
ドンッ。
ドンッ、ドンッ。
「うん、ありがとう。私もそばにいるよ。ずーっと」
美瑠の手を握った。
私と同じくらいの大きさに細い指。
「梨花、考えて考えて考えちゃうのは私たちの悪い癖でもあるわけ」
「まあ、確かに」
「でも、しょうがないんだよね。こればっかりは」
「そう……だね」
宵は彩られ、七色の光が弾けて。
しだれて。
その光の筋は、天の川の涙ようだった。
髪を優しく鋤いていく。
唇に髪を残して。
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