表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
約束の木の下で ―欠片―  作者: ぽんこつ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

11/28

遠くにきて。近くにきて。

五月晴れ。

青色の黒板に飛行機のチョークが描いた真っ直ぐな白い線が一本。

緑が多い街。

山に囲まれているからなのか。

この場所がそうなのか。

しっとりとした空気に包まれている。

大きな街なのに広場にいると意外と音が少なくて。

風にゆだねた葉音やウグイスの歌声。

それと、私たち生徒の賑やかさしか聞こえない。

目の前には大きなお城。

白鷺城という名の別名を頂くのがわかる。

白粉と白無垢を装ったお姫様のような佇まい。

正座して。

堂々として。

華やかに見える。

けれど、どこか儚げで。

道端にひっそり咲いている一輪の花のようにも想える。

街の真ん中から、みんなを見守るように。

そして、街の至る所からみんなの心に留まる。

この街の歴史と象徴なんだ。

私が住んでいる街のシンボルはなんだろう?

駅ビルかな?

意外と思い浮かばない。


今日は、中学の修学旅行の2日目。

午前中までの京都とは違う、穏やかで心地の良い空間。

京都が居心地が悪いのではなくて、人が多すぎたからかもしれない。

お寺や神社も人だらけだったから。

修学旅行のシーズンなのか、京都でもここ姫路でも、私たちのような制服姿の団体が多い。

「梨花ー」

高く明るい美瑠の声。

両手を振りながら駆け寄ってくる。

「どうしたの?」

首をかしげる私。

「どうしたのじゃないって、これから班で自由時間でしょ」

「ああ、そうか」

「どうしたの? ボーっとして、具合悪いの?」

「ううん、大丈夫だよ」

ん?

視線を感じて振り返る。

私たちの学校の生徒と他の学校の生徒がいるだけ。

「ほら、梨花行くよ」

私の腕に抱きついて引っ張っていく。

「しんじー」

男の子の声が耳に届いて。

ハッとして、その声がした方を向く。

遠くに、他校の制服姿の一団がいた。

呼ばれた男の子だろうか。

一人、軽やかに走り、生徒達に溶け込む後姿。

当たり前だけど、何をしゃべっているかは聞こえない。

やがて、その団体はお城に向かって歩き出した。

「ちょっと、梨花、前向いて歩いてよ」

隣で膨れる美瑠。

「ごめん」

もう一度、振り返って、ふっと笑う。

こんなとこにいる訳ないか。

「よし、じゃあ美瑠、食べ歩くよ」

「えきそばに、御座候ござそうろう、城下町どっぐ、どろ焼。どれも美味しいって評判だからね」

葉がきらきらと光を跳ね返して、土の匂いを含んだ風が制服のスカートを追い越していく。

ホーホケキョ。

みんなの笑い声を爽やかに織り交ぜながら。



バスに乗り、今度は赤穂という街に来た。

城郭はないけれど、ここもお城が街の真ん中。

歴史が街の中に息づいている。

塩味饅頭しおみまんじゅうを片手にみんなで城跡を探検した。

同じような壁や石垣と地面と建物と。

なんか迷路みたいで、方角が分からなくなって。

「あれ? ここさっき通ったよね?」

なんて、美瑠は何回も言っていた。

お堀の水がゆらゆらと浮かぶ光を岸の草木にお裾分けしている。

ふと、見上げた空は、高くて広かった。

そう。

夕凪島のように。


私たちの宿泊するホテルは瀬戸内海沿いにあった。

赤穂御崎という場所。

温泉街みたいで、いくつもの旅館やホテルが立ち並んでいる。

そのすぐ近く。

淡い潮の香りに包まれた一帯に。

伊和都比売神社いわつひめじんじゃがあった。

海に向かって建っている神社。

こじんまりとして。

青々と匂う木々に囲われた境内。

ホーホケキョ。

透き通る歌声や。

地面に揺らぐ無数の光の粒。

そよぐ風が懐かしい。

気がした。

がらがらと鈴を鳴らして。

柏手を打って。

目を瞑り、手を合わせた。

初めてお参りさせてもらいました。

ありがとうございます。


目を開けて。

振り向いたら。

参道の先。

鳥居の向こうは。

空と海が見えた。

ぞわりと肌がざわめいて。

だって。

とても似ていたから。

広さと色が。

記憶の中の鮮やかさに。

私は、みんなの目を盗んで姫守ひめまもりをこっそり買った。

普通のお守りと違って。

ストラップに小判が付いていて。

赤い着物をまとったかわいいお姫様がちょこんといる。

美瑠が教えてくれたのだけど、縁結びの神社でも有名みたいだったから。


神社のそばには、『きらきら坂』という場所があった。

おしゃれな小物を売っているお店やカフェがあって。

海沿いの歩道の小さな一帯だけど。

ぎゅっと楽しいものを詰め込んだような空間だった。

壁の上でお昼寝している猫。

水面を漂う海鳥。

さらさらと岩場に寄せて、白く弾ける波。

のんびりな散歩。

神社に戻ってきて。

海に向かって佇む鳥居。

遥か彼方の水面にはいくつもの島が点在している。

あれ?

その一つ。

大きな島影が目に入る。

「梨花、そろそろ、ホテルに帰るってよ」

「ああ、うん」

「ねえ、ねえ、姫守ひめまもりさ、駿にも買わせたんだ」

「買わせたって」

思わず吹き出す私。

「だって、あいつ、いらない言うから」

「付き合ってるんだから、必要ないんじゃない?」

「そういうことじゃないんだよ。梨花なら分かってくれると思ったのに」

「分かってるよ、同じもの持っていたいんでしょ?」

「うん! そうなの。どうして男の子はそういうの気が利かないんだろ」

「きっと、駿介くん照れてるんだよ、みんないるし」

「そうかな?」

「そだよ」

「はーい。集合!」

先生の大きな声が潮風に乗って神社の木々を揺らしていった。


ホテルの部屋のベランダに出た私。

風はなくて。

柔らかな潮騒が、足元の下から、せり上がってくる。

夕暮れの光を帯びた茜色の空と水面。

その向こうに霞を帯びた島影が横に大きく広がっている。

私はスマホで地図アプリを起動する。

ペタペタと、サンダルが鳴って。

「梨花何やってるの?」

美瑠が私の背中をつついた。

「うん? ちょっとね」

画面を覗き込んでくる美瑠を余所に指を動かす。

「やっぱり……」

とくん。

鼓動が落ちて。

広がる波紋。

「なにが?」

「ううん。何でもないよ」

「ふーん」

顎に人指し指をあて、首をかしげる美瑠。

「ねえねえ、二人ともゲームしようよ」

部屋にいる友達の声に美瑠は誘われる。

私は、スマホから指をそっと離す。

画面に映し出されている場所は、私がいる所から1cmにも満たない距離。

小さな吐息を一つ。

ゆっくりと視線を送る。

遠くのぼんやりとした島影。

――夕凪島だ。

スマホを胸に抱き締める。

寒くないのに震える体。

にわかに込み上げてくる想いに。

鼻をすすって。

唇を噛んだ。

だって。

あの日以来、一番近くにいるんだから。

夏の5日間の想い出が、昨日のことのように甦る。

シンくん――

太陽は黄色い光を放ちながら。

もうすぐ、今日を終えるために空と海をゆっくり赤く染めなおしている。

不意の潮風が髪を弄ぶ。

気持ちいい。

この夕陽。

見ているのかな。

一番近くても海を隔てている。

でも、同じ空を見上げていてくれてたら――

「梨花ー」

おいでよって余韻を含んだ美瑠の優しい声。

「はあい……」

しっかりと目に焼き付ける。

平べったい島の姿を。

私が振り返り部屋に入ろうとすると、髪が風に残る。

こころのなかの願いのように。

お読み頂きありがとうございます。

感謝しています。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ