記憶の像
その人との出会いはいつかの放課後のことだった。
雨が酷くて、でも僕は傘を忘れてしまっていて。
しょうがなく雨が弱まる…あわよくば止むまで少し学校にいようと思った。
傘の貸し出しは僕が借りに行ったときには無くなっていた。
今日は親がいない。
ザーーー…
なんだか薄暗い学校は気味が悪い。
僕は部活は入っていなかったのでこの後の予定も特になかった。
僕は今年入学した新入生。
だからまだ正直学校の部屋の位置とか、覚えていない。
なかなかに大きい学校なのだ。
だから適当に学校探索をしてみようと思った。
廊下に出て適当に歩いて適当に進んだら、こんな人の少ない雨降る日に窓を開けて、カメラを構えている人がいた。
彼女がカメラごとこちらを振り返る。
ぱしゃ
シャッター音が聞こえる。
雨の音よりはっきりしたそれはなぜか耳に響くような気がした。
「…え、今撮った…?」
「うん。見る?」
「い、いや、ちょっと、や、やめてくださいよ」
少し語尾が強くなったのは怒ってるからじゃない。
そうだな…困惑と呼べばいいのだろうか。
初対面の人の顔をいきなり出会って4秒もしないうちに写真に収めるのは良くないと思う。
「おーすごい、綺麗に取れた。ほら、キミもみる?」
彼女は自分の顔にカメラを近づけ笑う。
そのカメラはしっかりしていて普段カメラなんかと無縁な僕には迫力があって大きく見えた。
「け、消してください」
僕は彼女に少し近づく。
一年生だろうか、冬服を着ているが夏服の方が似合いそうだ。
「えー、でもなあ、」
すると何かを閃いたような顔をして声を上げる。
それが彼女との出会いだった。
「「おお」」
「ね、ね、 キレイ!」
あれから約一か月。
彼女が提案した『3か月後のコンクール写真を一緒に手伝って』というのに付き合いいろいろなものを撮っていた。
あのときの写真はコンクール結果が届いたら消してくれる、らしい。
いまいち信用ならない。
条件を提示されたときは理不尽だと思っていたがなぜか引く受けてしまったこの話。
そんなこんなで僕たちは今、光の反射を使って何か写真は撮れないかと撮影をしている。
「みてみて!光ってる光ってる!」
いつも絡んでくるしはしゃぐしで手のかかる彼女だが、写真の腕はバカにできないらしい。
僕なら正面から撮るなどと思いつきそうなモノも、いつも僕じゃ撮れないような角度だったり発想で写真に収めるのだ。
現に、小学生以来の何枚もの鏡に反射する光の線にすら興奮する。
現に、僕は彼女の写真に意見を言えるように。
現に、なんだかんだで彼女と一緒にいる。
それが証拠ってことなんだろう。
なんだか写真に似ている気がする。
ピントが合ったというか、なんというか。
だから今日も彼女に会いに行くために部室に行こうとした。
今思えば部室には行ったことがない。
いつも彼女が「写真撮ろー!!」と僕の元に自ら来るし、正直部室に行く機会がなかった。
「あの、すいません。」
なのでちょうどそこを歩いていた先輩に声をかける。
「あの、写真部ってどこにありますか?」
正直部活に入っていないので部活の場所はほとんど覚えていない。
そんな考え事をして、質問したくせによく話を聞いていなかった。
考え事をしていたんだ、今後の
「え、写真部って…」
ちょうど昨日の帰り道、たまたま良い空の写真が撮れたから
「あ、先輩。ちょっと良いですか?この子が写真部探してるって…」
部室にいなかったら適当に歩いてればきっと
「…ごめん、君、」
それにあの人は
「…写真部は」
放って置けない
「だいぶ前に廃止になったって」
だから———
「…へ?」
「俺今3年だけど、俺がこの学校入ったときにはなかったよ?」
「写真部って確か、」
————昔とある一年生が入って、コンテスト前に亡くなったって。それで、撮った写真の中から代わりにせめてもと選んで応募したら入賞して、それで
そこからの話は頭にない。ただ一つ頭に入った言葉は
————幽霊が出るって、
昔部室があった場所を教えてもらう。
あの人…名前がわからない。
そもそも
———あの人って誰だっけ?
そういえば僕以外がいるときに姿を見たことがなかったな。
そういえば学校以外で会ったことないな。
そういえば写真撮るときも毎回学校の中で撮ってたな。
「あーあ、認めたくなかったのに、バレちゃったかあーー」
僕は部屋に駆け込む。
扉が勢い良く開く音、そして僕は耳にする。
シャッター音、カメラの奥、レンズ越しの奥に今の像が焼き付く音がした。