表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/30

第8話 狩猟(Hunt)

 通信施設の制圧は完了した。


 だが、まだ“獲物”は残っている。


 テロ組織カラドの指導者──コードネーム《イムラム》。

 情報によれば、この建物の奥に位置する中枢区画に潜伏している。


 《サングレフ》は、標的の息の根を止めるため、次のフェーズへと動き出す。


     * * *


 「建物内部、北側に隠し扉を確認。地下区画へ続くルートの可能性あり」


 ノアのドローンが送る映像が、リタのゴーグルに表示される。


 「扉の電子ロックは解除済み。ただし、動体反応5以上。警護部隊が張りついている」


 「構わない。制圧する」


 リタ・サヴェッジは、迷いなく動き出した。


 その背後を、イーライ・ストラウスが静かに追う。

 互いに言葉は少ないが、連携は完璧だった。


     * * *


 地下への階段は薄暗く、狭い。

 足音は吸い込まれるように沈んでいく。


 だがその沈黙を破るように、扉が開いた瞬間、閃光弾が投げ込まれた。


 「──!」


 リタが目を逸らし、イーライが即座に射線を取り直す。


 反射的に飛び出してきた敵兵の胸を、イーライの銃弾が撃ち抜いた。

 リタは閃光の余韻を押し殺しながら、壁を蹴って横へと移動。


 すぐに、二人目が接近。

 銃口を向けられるよりも早く、《レメゲトン》がその喉を裂いた。


 「3時方向、遮蔽物の裏にひとり」


 イーライの報告に、リタがその影へと回り込む。


 物音を聞いて構えた敵が、撃つより早く──

 リタの身体が低く滑り込み、足元から膝を斬りつけた。


 叫びが上がる間もなく、《ユリシーズ》の一発が沈黙を与える。


     * * *


 地下区画は、意外なほど清潔だった。


 白い壁。無駄のない照明。

 そこには、テロ組織というよりも、企業の研究施設のような空気が漂っていた。


 「──気になるな。金と技術が、ただの宗教集団のものとは思えない」


 ノアがぼそりと呟く。


 「資金源と後ろ盾がある。裏で糸を引いてる別の組織がいる可能性が高い」


 イーライが冷静に分析する。


 「後で追うわ。今は獲物を仕留める」


 リタは言い切り、最奥の部屋へ向かう。


     * * *


 扉が自動で開いた瞬間、爆音が響いた。


 敵の指導者らしき男が、サブマシンガンを乱射してくる。


 リタはすぐに横へ跳び、壁際に伏せる。


 「距離15。敵、遮蔽あり。弾倉2本装備、銃はMP7系」


 「煙幕を使う。2秒後に射線を塞ぐ」


 ノアの支援が入る。


 室内に煙が充満した。


 ──その中で、リタは走った。


 足音を最小限に抑え、音と気配を消す。

 煙の中、敵は反応できない。


 リタの姿が煙から現れたとき、敵の表情が一瞬だけ凍った。


 《レメゲトン》が、敵の右腕を弾き飛ばす。


 銃が床に落ちる。

 反撃しようとした男の胸元に、《ユリシーズ》の銃口が突きつけられた。


 「──終わりよ」


 トリガーを引く。

 静かな音と共に、戦いは終わった。


     * * *


 「ターゲット、《イムラム》の排除を確認。リタが仕留めた」


 ノアの報告が全体に流れる。


 「地下施設の構造、データを取得中。通信機器と資金記録、回収する」


 「ブルワーク、どうだ?」


 「残敵処理完了。市街地の制圧率、90%以上。逃げたやつらも追えてる」


 「ロングサイト、動きは?」


 「静かだ。次の一手に備えた方がいいかもしれない」


     * * *


 煙の残る部屋で、リタは無言で《ユリシーズ》をホルスターに戻す。


 敵は死んだ。


 だが、それは“始まり”に過ぎない気がしてならなかった。


 この戦場には、まだ“何か”がある。


 《サングレフ》は、それを追うことになるだろう。


 だが今は──任務完了に向けて、最終段階を迎えようとしていた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ