表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/30

第5話 脱出(Exfil)

 夜が明ける気配は、まだなかった。


 だが、戦場は変化していた。

 警報は停止し、爆薬は解除された。

 人質は救出され、敵勢力は数を減らしている。


 任務は、ほぼ達成された。

 残るはただ一つ──**脱出**。


     * * *


 「……敵の増援が、工場北東側から接近中。ドローンの偵察によると十数名。タイムリミットは、五分」


 ノアの報告に、リタはわずかに視線を上げた。


 「脱出ルートは?」


 「屋上。そこにヘリを寄越す。あと三分で到着。乗り込めば即座に離脱可能」


 「了解。人質を先に移送する」


 リタは支えるふたりの技術者を見やり、軽くうなずいた。


 「……まだ歩ける?」


 「は、はい……っ!」


 緊張と恐怖で震える足を支え、リタは彼らを屋上へと誘導する。


     * * *


 背後の通路では、オーウェンが壁を背に構えていた。


 「《ブルワーク》、殿しんがりに入る。追ってくる奴らは、全部俺が止める」


 「《ロングサイト》援護頼むぜ!」


 その瞬間、銃声が轟いた。

 接近していた敵兵のひとりが、額を撃ち抜かれて崩れ落ちる。


 「距離110。風速0.7。狙いやすい」


 イーライの冷静な声が、通信に混じる。

 彼のスコープは、今も戦場を見据えていた。


 「心強いな」


 オーウェンは息を吐き、盾を構えた。


     * * *


 一方その頃、リタは屋上へと到達していた。


 遠く、夜の空を切り裂いてくるローター音。


 「ヘリ、視認」


 ノアの声と同時に、黒塗りの回転翼機が屋上に姿を現す。


 「人質を搭乗させる。あんたたちも続いて」


 リタの号令で、まず技術者ふたりが機内へと引き上げられる。


 だが──その時だった。


 屋上の扉が勢いよく開かれ、銃を構えた兵士が数名、雪崩れ込んでくる。


 敵の奇襲。時間稼ぎをかいくぐった残党だ。


 「危ない!」


 ヘリのパイロットが叫ぶ。


 その直後、リタの身体が動いた。


     * * *


 跳躍。

 銃弾をかすめながら、リタの身体が宙を舞う。


 最前の敵の手首を切り払い、銃を弾く。

 足払いでひとりを倒し、背後から迫る敵を《ユリシーズ》で撃ち抜く。


 もうひとりが振り上げたナイフを、《レメゲトン》で受け止め──反転。

 喉元を切り裂く。


 まるで、踊るように。


 彼女は、敵を翻弄する。


 最後の一人が慌てて逃げ出そうとした瞬間、リタは《ユリシーズ》を構えた。


 乾いた発砲音。──沈黙。


     * * *


 屋上に、再び静けさが戻る。


 「制圧、完了」


 リタの報告に、ノアが息をついた。


 「了解。搭乗を急げ。全員揃ってからじゃないと、飛ばせない」


 直後、イーライが姿を現す。


 「外周クリア。追撃の気配なし。ブルワークが最後だ」


 「行け、俺があとを──」


 その声とともに、オーウェンが駆け込んできた。


 「……ふぅ。全く、いい運動になったぜ」


 盾にはいくつもの弾痕。だが、彼自身に傷はなかった。


 「全員揃ったな。飛ばせ」


     * * *


 ヘリが地を離れる。

 夜明けの気配とともに、工場の姿が遠ざかっていく。


 リタは無言で座席に座り、ホルスターの《ユリシーズ》を確認する。


 そして、マイクを静かに握った。


 「──《サングレフ》、作戦完了」


 その一言に、全員が無言でうなずいた。


 戦いは終わった。


 だが、次の任務は──もう始まっている。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ