表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/30

第4話 人質(Payload)

 廃工場の内部。

 かつては製鉄炉が唸りを上げていたはずの中央制御棟は、今や違法兵器と人質の倉庫となっていた。


 焦げ臭い鉄と、油の匂いが鼻を刺す。


 《サングレフ》の3人は、破壊された警備網をかいくぐり、中心部へと到達していた。


     * * *


 「人質の反応あり。熱源2つ……奥の部屋、ケージ内。周囲に高濃度の化学物質。……それと、爆薬反応」


 ノアの声が届く。

 リタが立ち止まり、無線に応じた。


 「爆薬の種類は?」


 「即席型。化学誘発式の多重トリガー。おそらく、扉が開くだけで起動する構造。敵、相当の用意周到さだ」


 「解除できる?」


 「現場次第。そっちに中継ドローン回す。ARで爆薬の配線を視認して、俺にフィード送ってくれ」


 「了解」


 リタは無言でゴーグルを展開し、ドローンからのフィードを照合する。

 人質はふたり──白衣姿の中年男性と、血の気の引いた若い研究者。どちらも動ける状態ではない。


 その足元には、小さな銀の球体。

 ドアのフレーム、天井の梁、床の下──見える範囲で7つの起爆装置。


 「……嫌な仕掛けね」


 リタが小さく呟いた。


     * * *


 「制限時間は?」


 イーライが背後から問いかける。


 「不明。でも、タイマーじゃなくて接触型。こっちがミスるか、敵が発見して起動させるかのどっちかね」


 「つまり……」


 「時間があるうちに、静かに終わらせるしかないってことだ」


 ノアの声に、全員がうなずいた。


 「オーバーワッチ、解除作業に入る。現場送信開始」


 「了解。フェンサー、指示通りにARラインをトレースして。配線ミスったら……ドカンだぞ」


 「冗談言う余裕があるなら、信頼していいのね」


 「最高の信頼をくれ。命が懸かってるからな」


     * * *


 爆薬の制御基板は、簡素で原始的。だがそれが最も厄介だった。


 電子的なセーフティがない。

 すべてがアナログ──つまり、一度でも触れれば、終わり。


 「右手で2番リードを挟んで、ゆっくり左へ。……そう、それを抜く。静かに。抵抗があるのはフェイクだから」


 ノアの指示に従い、リタの手が動く。


 汗がこめかみを伝う。

 あらゆる戦場を渡ってきた彼女でさえ、これは気を張る。


 「……抜けた」


 「よし、次は天井。梁の裏、黒い導線を確認。そこが本命だ」


     * * *


 その時、無線が微かに乱れた。


 「……オーバーワッチ、何か干渉が……」


 「チッ、敵が妨害波出してきた。解除プロトコルが……!」


 ノアの声が一瞬だけ遠のく。

 イーライが即座に背後を確認する。


 「敵影、南側通路から接近。10名規模。装備は自動火器。……数分でここに来る」


 オーウェンがゆっくり前へ出る。


 「──じゃあ、俺が時間を稼ぐ。ブルワーク、前へ」


 「私も行く。ひとりで押さえるには多い」


 リタが言うと、オーウェンが首を振る。


 「お前は爆弾の前にいろ。」


 彼の瞳に、重い決意が宿っていた。


 「フェンサー。お前が任務を完了させろ」


     * * *


 廊下に響く銃声。

 オーウェンが正面から敵部隊を押し返し、イーライがカバーに回る。


 ノアが再び声を張った。


 「フェンサー、戻った。ノイズ除去完了。あと三つ、やれるか?」


 「やるしかない。指示を」


 リタの指が、ふたたび爆薬のリード線をなぞる。


 冷静。正確。速く。


 仲間たちが命を張って稼いだ時間を、無駄にはしない。


     * * *


 ──最後の導線を抜いた瞬間。


 全ての爆薬が、無効化されたことをノアが告げた。


 「よし、解除完了。人質、確保に移ってくれ!」


 リタがケージの鍵を破壊し、ふたりの技術者を引き寄せる。


 「動ける? 歩けるなら、今すぐ立って」


 「だ、大丈夫、です……ありがとう……!」


     * * *


 廊下の銃声が遠のく。

 敵の増援は撃退された。


 オーウェンとイーライが戻る頃、リタはすでにふたりの人質を肩に支え、出口へ向かっていた。


 「人質確保。脱出フェーズに移行する」


 その声に、ノアが応じる。


 「……《サングレフ》、あと一手。生きて帰ろう」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ