第3話 突入(Storm)
爆風の残響が、工場の鉄骨を揺らしていた。
だが、制圧は完了した。
サングレフの4人は、戦場に混乱を残すことなく、次の目標──建屋内部へと動き出す。
* * *
「出入口、赤外線センサーあり。無効化に三十秒ほど必要。少し待て」
ノアの冷静な声が無線に流れる。
「急がなくていい。敵が反撃に転じたら、むしろこっちの都合がいい」
オーウェンが口元を歪め、再装填したLMGを肩に担ぎ上げた。
「冗談じゃないでしょ、あんたが突っ込んだら建物が倒れるわ」
リタがぼそりと返す。
「俺が先に中に入ったら、誰も入れなくなっちまうもんな。遠慮しとく」
言葉は軽くとも、構えは崩れない。
* * *
──カチ。
センサーの無効化が完了する音が響く。
「内部警備システム、無力化成功。侵入、どうぞ」
ノアの言葉に、リタとイーライが同時に動いた。
リタは《ユリシーズ》を構え、イーライはナイフを抜いたままスコープを覗かずに先行する。
暗く狭い通路が続く内部は、銃撃戦よりも静かな制圧が求められる。
この瞬間、戦場の主役は火力ではなく、**沈黙**だった。
* * *
通路の奥、敵兵が数人、待ち構えていた。
彼らはまだ気づいていない。
足音ひとつ立てぬ影が、すでに手の届く距離まで迫っていることに。
イーライのナイフが、最も後方の兵士の背に滑り込む。
苦しむ声すら上げさせず、沈黙させる。
それに気づきかけた隣の兵士の胸に、リタの《ユリシーズ》が一発。
サプレッサー付きの乾いた音が、静かに命を奪った。
残る二人がこちらを振り向く前に、リタは低くしゃがみ、イーライがその肩を踏み台にして跳ぶ。
頭上から降るような動きで、敵を一人、もう一人と無力化する。
完璧な連携だった。
会話も、合図も要らない。
この二人に必要なのは、ただ一瞬の判断だけ。
* * *
一方その頃、外部ではノアが眉をひそめていた。
「……ちょっと面倒なもんが目覚めたみたいだな」
彼はラップトップを操作しながら、仲間たちに告げる。
「敵の本部が中央制御システムを再起動させた。建屋の一部がロックされ、警報が再起動。すぐに察知されるぞ」
「おいおい、ジャミングは完璧だったんじゃねえのかよ」
オーウェンが舌打ちしつつ、銃身を上げる。
「……たぶん、手動だな。想定よりも現場の対応力が高い。こいつら、ただの武装集団じゃねえ」
「つまり?」
「つまり、"迎撃の準備をしている"ってことだよ」
ノアの声に、リタが静かに呟いた。
「なら──こっちも、全力で行くだけね」
* * *
建屋の奥、鉄製の扉が開かれた瞬間、弾幕が飛び出してきた。
「敵接近──武装強化、装甲兵あり!」
ノアの警告が鳴るより早く、オーウェンが前に出た。
「《ブルワーク》、火力展開!」
盾を突き出し、正面から機関銃をばら撒く。
敵の反撃を抑え込みながら、一歩、また一歩と前進する。
「重装兵は俺が引きつける。フェンサー、左から回り込め!」
「了解。ロングサイト、後方援護頼める?」
「照準、完了。動きを止めてくれれば、一発で仕留める」
敵の足元へとグレネードが転がる。
爆風に巻き込まれてひるんだ装甲兵に、リタが走り込む。
《ユリシーズ》が脚の関節部を撃ち抜く。
崩れかけた身体に、イーライの狙撃弾が一直線に貫いた。
* * *
静寂が戻る。
重装兵の巨体が音を立てて倒れ、鉄の床が震えた。
「──クリア」
リタの報告に、ノアの声が応じた。
「確認した。監視系、完全ダウン。内部警備なし。次のエリア、人質確保区画へ移動してくれ」
煙の中、リタは《ユリシーズ》をくるりと回してホルスターに戻す。
「《サングレフ》、侵入完了。次──奪還フェイズに移行する」
仲間たちの無言の応答が、通信を通じて伝わる。
任務は、まだ終わらない。