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第22話 狙撃手たちの標的(Open the Curtain)

 夜明けの街に、冷たい風が吹いていた。

 《サングレフ》のメンバーはすでに、任務に向けてそれぞれの持ち場に散っていた。


 「警護対象は、11時半に会場入り。スピーチ開始は12時。現地にはすでに監視ドローンを展開中」


 ノア・リン──《オーバーワッチ》は、拠点のモニタールームに陣取っていた。複数の映像がスクリーンに映し出され、顔認証プログラムが群衆の中から不審人物を洗い出している。


 「狙撃ポイントはA〜Dまで4か所。狙撃可能距離、角度、建物の構造は全て確認済み」


 彼の報告を無線越しに受けながら、イーライ・ストラウス──《ロングサイト》は、会場から約500m離れた高層ビルの屋上に伏せていた。狙撃銃のスコープ越しに、ゆっくりと会場をなぞる。


 「射線は悪くない。気温、湿度、風向も計算通り」


 彼の声は淡々としていたが、その視線の鋭さはまるで獣のようだった。


 一方、地上ではオーウェン・ケイン──《ブルワーク》が人混みに溶け込むように歩いていた。厚手のジャケットの下には防弾ベストと小型LMG。

 リタ・サヴェッジ──《フェンサー》は、少し離れた路地裏に身を隠しながら、会場の裏口を監視していた。


 「ターゲットのルートは予定通り?」


 「問題なし。警護車両が入った。……到着、確認」


 ラシード・タウファが車両から降りた。黒いスーツに小さなバッジをつけ、笑顔で手を振るその姿は、彼を取り巻く“影”をまったく感じさせない。


 「オーバーワッチ、異常は?」


 リタの問いに、ノアは素早くモニターを切り替えた。


 「今のところクリーン。ただし、ドローンジャマーの微弱信号を感知。誰かが妨害を試みてる」


 「外部から?」


 「いや、会場の内部から。──これ、始まるぞ」


 その瞬間、イーライの耳に微かな音が届いた。


 「……屋上。南棟。照準器の反射を確認」


 「移動しろ。《ロングサイト》、射角を確保」


 「了解。──始末する」


 スコープが微かに揺れる。呼吸を止める。引き金を絞る。


 ──バン。


 音もなく、南棟のスナイパーが頭を弾かれて崩れた。


 「一人排除。あと何人いるかは不明」


 その報告とほぼ同時に、会場内に小さな悲鳴が上がった。群衆の中で、不自然な動き。

 リタが即座に路地から飛び出した。


 「右の植え込み! 銃だ!」


 警護スタッフが群衆を押しのけ、リタが回り込むように接近する。


 「撃てないなら、私が行く!」


 迷いはなかった。足音が続く中、リタは全力で突っ込み、男の懐に飛び込んだ。

 ナイフ「レメゲトン」が風を裂き、男の手首を裂いた。


 銃声は鳴らなかった。

 その代わりに、別の銃声が響く。


 「!──上空、ドローン射出!」


 ノアが叫ぶ。スクリーンに映るのは、煙を巻き上げながら急降下するドローン型爆弾だった。


 「ブルワーク、任せた!」


 「来ると思ってたさ!」


 オーウェンが防壁装置を起動させ、身を挺して人々の前に立ちはだかる。

 爆音。衝撃。土煙。


 しかし──爆発の直前に制御信号が切断され、ドローンは地面に激突してそのまま崩れた。


 「ハッキング成功。機体中枢、ジャミング済み」


 ノアの冷静な声が、騒然とした空気の中に静かに落ちる。


 リタは小さく息を吐き、血塗れのナイフを納めた。


 「──終わった?」


 「いや、始まったばかりさ」


 ジュード・マクレガーの声が、無線には入っていない、どこか遠い場所で響いた気がした。


 この戦いには“続き”がある。

 まだ見ぬ敵が、闇の奥で笑っている。


 だが《サングレフ》は、そこへ向かって歩き始めていた。

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