第10話 証明(Clean Up)
静けさが戻っていた。
戦火に包まれていた街パラムは、わずかな煙と銃声の余韻を残しながら、やがて静寂に飲まれていく。
その沈黙は、ただの終わりではない。
それは《サングレフ》による任務完了の“証明”だった。
* * *
「全区域、制圧完了。抵抗勢力はゼロ。建物内に取り残された敵影も確認なし」
イーライ・ストラウス《ロングサイト》が、スコープ越しに市街を見渡して報告する。
「市街地の被害、最低限。瓦礫の山が増えたぐらいだな」
オーウェン・ケイン《ブルワーク》が、大破した装甲車を背にして言った。
「後始末は地元に任せよう。私たちはあくまで契約対象を遂行しただけ」
リタ・サヴェッジ《フェンサー》が、冷静にそう告げる。
* * *
一方その頃、ノア・リン《オーバーワッチ》は回収した敵のデータベースを解析していた。
複数の通信ログ、資金トランザクション、国外への暗号送信履歴。
どれも“ただのテロ組織”が持つ情報量ではない。
「こいつは……ずいぶんときな臭いな」
彼はメイン端末の画面を数度タップし、データを暗号化して中央司令へ送信する。
「カラドの背後にいたスポンサーが、どうやらもっと大物らしい。国家、あるいは──その裏」
「確証はあるの?」
リタが問うと、ノアは小さく肩をすくめる。
「証拠はある。だが“証明”できるかは別だな。俺たちの仕事は、そこまでじゃない」
* * *
撤収準備が始まった。
《サングレフ》の4人は、それぞれに道具を回収し、装備を確認する。
誰も派手なガッツポーズは見せない。任務は“成功して当たり前”──それが彼らの流儀だ。
「ヘリ、あと三分。回収ポイントは市街地北、橋梁跡」
ノアの声に、イーライがライフルを背に立ち上がる。
「……これで一区切りか」
「いや、始まりだ。こっからだろ、面白くなるのは」
オーウェンが笑い、リタはそれに答えず静かに前を見据える。
* * *
ヘリのローター音が、遠くから近づいてくる。
その音を聞きながら、リタは市街地の高台に立ち、街の全景を見下ろしていた。
破壊された建物、吹き飛んだ瓦礫。
だが、守られた命もある。奪われずに済んだものもある。
「……《証明》、ね」
誰にともなく呟く。
戦場に善悪はない。ただ、結果と目的があるだけ。
そして彼女たちは、それを“遂行”する者。
リタはホルスターの《ユリシーズ》を確認し、肩をまわした。
任務は終わった。
だが、戦いは終わらない。
* * *
《サングレフ》、帰還。
それが意味するのは、ひとつの戦場の終焉。
そして、新たな任務の始まり。
次の戦場へ向かう彼らの姿を、誰も知らない。
だが、彼らが“証明”するものは、いつも同じ。
──確実に、正確に、そして静かに。
彼らは戦う。名もなき影として。




