表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/30

第1話 侵入(Breach)

 日が沈みきらぬうちに、戦場は始まっていた。


 中東のとある内戦地帯。かつて工業都市として栄えたその街は、今や鉄と煙の瓦礫の山だ。廃工場の一角に、国際的な監視対象となっている武装勢力の拠点が存在する。違法な兵器の保管と、複数の人質が拘束されているという情報が入ったのは、わずか十二時間前のことだった。


 対応に選ばれたのは、PMCサングレフ。個人の能力と戦術行動に特化した、少数精鋭の非正規部隊である。


 砂塵舞う夜明け前、作戦は始動した。


     * * *


 「ブリーフィング送信完了。ターゲット構造図、敵勢力の配置、屋内センサー網、全部オーバーライド済み」


 通信機越しに、落ち着いた声が響く。ノア・リン──コードネーム《オーバーワッチ》。遠隔から支援する電子戦のスペシャリストだ。


 「じゃあ、俺は南の排水路ルートから入る」


 静かに告げたのはイーライ・ストラウス。スナイパーであり索敵のプロフェッショナル。《ロングサイト》の名は伊達ではない。


 「俺は北側の壁ごと突っ込む。連中、音には驚くだろうな」


 重量級の装備を担いで笑うのは、オーウェン・ケイン、《ブルワーク》。元軍用科学者とは思えぬ筋骨と火力を誇る重装兵だ。


 そして、4人目の影が、物音ひとつ立てずに佇んでいた。


 「私が正面を引く。突入後、内部通路で合流」


 短く言い切ったその女──リタ・サヴェッジは、膝のホルスターからハンドガン《ユリシーズ》を外し、銀刃のナイフ《レメゲトン》を確認する。


 彼女のコードネームは《フェンサー》。戦場を縦横無尽に駆け、敵を切り裂く剣士だ。


     * * *


 廃工場に向かう暗渠は、ヘドロ混じりの悪臭が鼻を刺す。ノアのハッキングによって監視カメラは無力化されたが、警備兵は健在だ。


 「接敵、3名。装備は旧式のAK。配置、ばらけてる」


 ノアの情報に、リタは一瞬だけ呼吸を整え、足を踏み出した。


 コンクリートの影から一気に躍り出る。銃声は――ない。


 《ユリシーズ》から吐き出されたサプレッサー付きの一発が、最も遠くの兵士の頭部を射抜いた。


 同時に、リタの身体が回転する。


 《レメゲトン》が、警備兵の喉元を無音で裂く。


 最後の一人は声を上げる間もなく、リタの蹴りで壁に叩きつけられ、そのまま昏倒した。


 「処理完了。制圧に要した時間、十秒」


 通信に報告を入れながら、リタは無表情のまま次の扉へと歩き出す。


     * * *


 外周部から、激しい爆音が響いた。オーウェンの突撃が始まったのだ。


 その間に、リタとイーライは内部へ突入する。


 工場内のレイアウトは入り組み、光もほとんど入らない。だが、それを不利とする者はいなかった。


 イーライのスコープが敵の熱源を捉える。無言でリタがうなずき、ふたりは分かれる。


 連携など、言葉にするまでもない。


     * * *


 「よし、セキュリティは全解除完了。敵の通信もジャミング済み。どうぞ、派手に暴れて」


 通信越しのノアの声に、リタが小さく微笑んだ。


 「了解。フェンサー、侵入完了」


 4人のプロフェッショナルが、無音の雷のように敵地を走る。


 サングレフ──それは、制圧の赤い閃光。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ