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それからドキドキとする胸を抑え、私がやってきたのは製菓用の厨房の隣にある厨房だった。夕食が終わり、後片づけと明日の仕込み準備をしている厨房は、食事前の慌ただしい雰囲気とは打って変わって静かである。
ここへ来た目的は、料理長のとめ吉さんに会うことだった。
私に与えられた日数は、あとわずか。それまでに天の湯の幹部たちを唸らせるスイーツを作らねばならない私ができること、と考えたときにできることは全てやろう。そう思って、ここへ来た。
「お仕事中、失礼します。とめ吉さんはいらっしゃいますか」
厨房の中へ一歩踏み出し声をかければ、みんなの視線が自分に集まるのを感じる。厨房にいる、たくさんの人。過去のトラウマを思い出し、今だに足がすくんでしまいそうになる自分がいるけれど、それでも私は両手を握りしめた。
「なんや、あんたか」
両手を布巾で拭きながら近づいてくるとめ吉さんに、私はバッと頭を下げた。
「無理を承知でお願いします!私に、どうか力を貸していただけませんか……っ!」
これ以上、ひとりで延々と悩んだところで、できることは限られている。経験豊富な料理人の意見は、まだまだ未熟な私にとって貴重だ。彼に嫌われているのは百も承知。でも、だからといって、このまま逃げ続けるわけにはいかなかった。
「と、とめ吉さん、俺からもお願いします!」
と、そのとき。私の隣に立った源さんがそう言って私と同じように頭を下げてくれていた。続いて「俺からもお願いします!」と、貫太さんまで。




