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「……あかねを縁の坊へ迎え入れると決めたのは、この私。縁の坊の大旦那である私は、すべての責任を負うためにいるのです。それに対して責任を取れと言われることは、何も間違ったことではありません」
そこで「ですが──」と反論しようとした氷雨の言葉を遮るように、私は「だからといって」と声をあげた。それから私の顔を見た氷雨は、目を見開いて驚いていた。
「だからといって、このまま指をくわえて審判が下るのを待つつもりはありません。最後まで私は、私にできることをやるのみ。……私だって、この縁の坊が好きですから。大旦那を辞めたくなどありません」
そう言ってにこりと微笑めば、じわじわと氷雨の表情が変化していく。それから「時景様……っ!」と頬を緩める氷雨に、私も笑みを返す。と、そのとき、扉の外でがたんと音が聞こえてきた。不思議に思って氷雨と顔を見合わせたが、反応はない。それから氷雨が扉を開けてみたものの、そこには誰もいなかった。
「……時景様」
けれど、氷雨が床に落ちていたものを拾い上げ、私にそれを見せてきた。そこにあったのは、1枚の黒い羽。この旅館に黒い羽をもつあやかしは、ひとりしかいない。彼にもきちんと話をせねば、と思ったが、ちょうどそのときに番頭から飛ばされてきた式神の対応をせねばならず、私と氷雨はすぐさま旅館の玄関へと向かったのだった。




