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蒼真様はそう言いながら、私の反応を探るような視線を向けてくる。
この試されているような空気は苦手だ。心の奥底では、何を考えているのか分からない。幽世にいる間はこの方々の下で長く働いていたが、掴みどころのなさは昔から変わらず、である。
「……けど、人の子を雇うことに反対してとる従業員もおるんやろ?離れの邪気を払ったからといって、役立たずの菓子職人を雇い続けるわけにはいかんのとちゃう?」
蒼真様の核心をついた言葉に、私はまた両手を握りしめた。
「それに、時景。お前の手腕を見定めると言い渡したあの日から、もうすぐ一年だ。今のところ、大幅な赤字は出していないものの、これといって特筆すべき業績も上げていない。俺様がお前に命じたのは、現世において我が天の湯の名を盤石にすることだったろう?」
「ええ……おっしゃる通りです」
八雲様の言葉にそう返せば、「そこで、だ」と続ける八雲様。にたりと笑う楽しそうな顔に、嫌な予感が頭をよぎる。
「藤宮あかねが作った菓子の審査は、我々天の湯の幹部に任せてもらおう。その結果次第で、お前の進退も決める」
そして、残念ながらその「嫌な予感」は見事に当たってしまった。「皆さまが、ですか」と私が問えば、「ああ、不満か?」と笑う八雲様。拒否権など存在しないと同義。彼らが決めた決定事項を覆す力など、私には持ち合わせていない。となれば、返事はひとつ。
「いえ……。承知いたしました」
本音はすべて心の奥底へと沈ませて、私は深々と頭を下げた。
「そのあかねとやらはあたしたちを、果たして満足させられる菓子を作ることができるのか。……とても楽しみだ」
重苦しい空気が広がる部屋の中で、熾音様は優雅に扇子を仰ぎ、愉快だと言わんばかりに笑っていた──。




