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甘味処や酒屋など、賑やかな通りを抜けた先、街の中心ともいえる場所に立つ天の湯に足を踏み入れた私の心は、どこか落ち着きが悪かった。それは、今日呼び出された原因に、なんとなく検討がついていたからかもしれなかった。
「時景、今日お前を呼んだのは他でもない。……お前が雇った人の子について話があったからだ」
幽世にある天の湯の一室に呼び出された私は、目の前に並ぶ幹部たちを前に一礼した。牡丹や菖蒲、蓮に藤など絢爛豪華な花々が描かれた襖絵に囲まれた空間とは裏腹に、室内に漂う空気は重々しく、彼らから発せられる重圧をひしひしと肌に感じる。
黒髪に同じ色をした切長の瞳、額には角が生えている鬼神の八雲様。
肩のあたりで切り揃えられた濃藍色の髪に、感情が読めない糸のような目。派手な柄の着物纏った龍神の蒼真様。
燃えるような長い赤髪。まつ毛が長く流麗な瞳の火の女神、熾音様。
彼ら3柱の神々が、この幽世一と名高い天の湯を取りまとめる幹部である。
「お前がぜひにと連れてきた藤宮あかねとかいう人の子だが、どうやら思ったような菓子を作るに至っていないそうじゃねぇか」
予想していた八雲様からの指摘に、私は「ええ」と返す。それから膝の上に置いた手に力を込め、幹部たちを見る。
「ですが、まだ経験の浅さは感じられるものの、やはり彼女が作る菓子は我々あやかしにはない独自の視点があります。今は、改善策を出すようにと2週間の猶予を与えているところ。必ずや旅館の集客において目玉のひとつになる菓子を作らせてみせます」
頭を下げ、そう伝えれば「ほお」と楽しげに笑う八雲様の声。扇子が開く音が聞こえ顔を上げると、優雅にそれを仰ぎながら私を見つめる熾音様と目が合った。
「えらくあの娘を評価しておるのだな、時景は」
「……現に、縁の坊で邪気を放っていた離れを何とかしてみせたのは、あの娘です」
愉悦に帯びた瞳を見つめ返し、そう返せば「そうだったな」と笑う熾音様。その隣では、蒼真様がにこやかな顔をして私のことを見つめている。
「時景にそこまで言わせる娘がおるとは。僕もその子のこと気になるなぁ」




