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特に、料理長のとめ吉さんの反応は気になった。先ほどからずっと黙ったまま、それはケーキを一口食べたときも同じだった。全員、講評の内容を紙に書き留めているようで、4人がそれぞれに筆を走らせている。
「では、全員食べ終えたので一人ずつ講評をお願いします。まずは料理長のとめ吉殿から」
氷雨さんの言葉に、私はギュッと両手を握りしめた。それからとめ吉さんの方を見て、「よろしくお願いします」と頭を下げる。そして、顔を上げた瞬間──。
「はっきり言って、これではお客様の前に出せへんな」
開口一番にそう言われて、一瞬息が止まった。手を組み、私を見つめるとめ吉さんは真剣な顔をして言う。
「春を感じさせたいのは分かるし、確かに見た目は綺麗や。ただ、桜餡の味が薄すぎるし、塩気が微妙に強くてケーキの甘さと調和も取れとらへん。何より、作り手の技術を主張しようとしすぎて、ケーキ本来の魅力が損なわれとる。こっちの灘の酒を使ったケーキも確かにいい案やけど、そもそもうちに来るお客様の全員が日本酒好きやとは限らん。子どもでも美味しく食べられるもの、となると、これを採用というわけにはいかんやろ」
その言葉にハッとした私。あまりに審査のことに気を取られすぎていて、私は一番大事なことを忘れていた。
「……あんたは誰のために菓子を作るんや?それをもういっぺん考えて作ってもらわんと、ええよとは言われへん。それが、この旅館の料理長を任されとう俺の信念や」
「以上」と締めくくったとめ吉さんに、「ありがとうございました」と頭を下げたけれど、その声は自分の想像以上に小さく聞こえた。
次に、氷雨さん、美鶴さんの講評が続く。二人ともこういうところがいい、と褒めてはくれたけれど、先の3人で最終的にGOサインを出してくれたのは美鶴さんだけだった。みるみる表情が固まっていくのを自分でも感じながら、最後は時景様の講評の番。
「……結論から言うと、私も今回のスイーツではお客様にお出しできないと判断しました」




