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狐のあやかしだから、金髪なのかしらとも想像を巡らせつつ、「それで」と彼に言葉の先を促す。
「あやかしの貴方が、人間の私に何の用なのかしら」
腕組みをしたまま私がそう尋ねると、男はおもむろにずいと近づいてきた。押し入れの襖を背に追いやられた私は、途端に縮まった距離にどきりとする。美しい翡翠色の瞳がすぐ側にあり、彼の瞳の奥に困惑した自分の顔が映っていた。
「ちょ、ちょっと!何よ──」
「どうか、我が縁の坊の菓子職人になってもらえないでしょうか」
思いがけない男の言葉に、私は「は?」と間抜けな声をあげ、目をぱちぱちとさせてしまった。
え、今なんて言った……?
「えんのぼう」の菓子職人……?
「先ほどもらった『すこーん』とやらですが、あれはたいそう美味でした!外側はほのかにカリッとして、内側は軽くてしっとり……。香ばしい香りとやさしい甘味、素朴ながらも奥深い味わいで、何個でも食べたくなる菓子ではありませんか!」
戸惑う私をよそに、何やら熱弁を振るう金狐のあやかし。顔がいいだけに、無駄にキラキラさせた表情が一層まぶしく見えるのは気のせいだろうか。
「ほ、褒めてもらうのは嬉しいけど、あれはいたってシンプルなスコーンよ……?」
眉間にシワを寄せる私に、彼は私の手を強く握りしめ、「それこそ私が求めていた味です!」と、さらに距離を詰めてくる。




