26
◇◇◇
翌日、私は緊張した面持ちである部屋の扉の前に立った。ワゴンの上には新メニュー開発のため作ったスイーツが乗っている。約束の2週間という日がとうとうやってきて、今日、私は時景様と氷雨さん、美鶴さん、そして料理長であるとめ吉さんの前でプレゼンすることになっていた。
作っているときは一生懸命だったので、発表するときのことまで考えておらず、いざこれから自分の作ったものを食べてもらうことを考えると、お腹がキリキリと痛むようだった。
「大丈夫……大丈夫……」
そうやって自分に言い聞かせてみるも緊張は全く収まる気配がない。いよいよ手まで震えてきて、やばいと思った私はパンと両手で頬を叩いた。
これまで、ここで作ってきたお菓子をみんな美味しいと言ってくれたじゃない。
心の中でそう呟き、「よし」と小さく気合いを入れてから私は扉をノックした。
「どうぞ」
中から時景様の声が聞こえ、扉を開け部屋へと足を踏み入れる。長机には氷雨さん、料理長、時景様、美鶴さんの順で座っていて、全員の視線が私に集中していた。
「今日はよろしくお願いします」
頭を下げ挨拶した後、氷雨さんに促されて早速4人の前に試食してもらう皿を並べていく。
「今回、私が作ったのは抹茶のケーキです。京都の抹茶を使ったシロップで風味づけしたスポンジケーキを重ねて、その間に生クリームと、ほんのり塩味を効かせた桜餡を挟んでいます。ケーキの上には、イチゴと桜模様を転写したホワイトチョコレートを飾り、春らしい華やかさを演出してみました。もう一品は、灘の日本酒を使ったチーズケーキです。縁の坊では神戸の素材も積極的に使っているとお伺いしたので、こちらは地産地消を意識して作ってみました」
緊張しているせいか、少しだけ早口になりながらもケーキの説明をしていく。4人はそれぞれに、いろいろな角度から眺めたり、香りを嗅いだりしていて、すでに審査は始まっているようだった。
「確かに春らしくて可愛らしい見た目ですね」
「先日いただいたチーズケーキも美味しかったですし」
氷雨さんや美鶴さんの言葉にほっとしつつも、私はケーキを食べる4人から目が離せなかった。




