24
その瞬間、稚日女尊様は信さんの方を見た。
「信が……?」
「ええ。稚日女尊様が好きな味といっても、人それぞれ好みの味加減は異なるものです。このチーズケーキに入れる日本酒も、出来上がったチーズケーキも信さんが何度も何度も試飲や試食して真剣に選んでくれました」
その言葉に目をぱちぱちとさせた後、稚日女尊様はふと笑い「ほお」と呟いた。
「おぬしは、わらわがおらぬ間に社の仕事もほっぽり出して、酒を飲んでおったと?」
瞬間、胡乱な瞳を向けた稚日女尊様に、急にあたふたと焦り始める信さん。
「い、いえ!稚日女尊様!だからこれは、その……っ!」
「社の仕事は、凪やほかの者にきちんと頼んだ上で、こちらに来ましたので、仕事に支障は……っ!」だなんて稚日女尊様に詰め寄っている。
そんな必死そうに弁明する信さんを見て、稚日女尊様がぷっと噴き出した。目を丸くして驚く信さん。稚日女尊様は、そんな信さんに慈悲に満ちた眼差しを向けながらじっと見つめる。
「……おぬしが真面目な性格だということは、わらわが一番知っておる」
「何年一緒におると思っとる」と続ける稚日女尊様に、「稚日女尊様っ!」と信さんの顔がみるみるうちに綻んでいく。
「……じゃが、言葉にせんかったのはわらわも同じじゃな。良縁がないと嘆いていたが、一番身近にある縁を……わらわは忘れておったわ」
稚日女尊様はそう小さく呟いた後、信さんをまっすぐ見つめた。
「これからは、困ったときはおぬしを頼ることにするかのう」
明るく朗らかに笑いながらそう言った稚日女尊様。その表情には、先ほどまでの憂いはない。信さんは驚いた顔をした後、破顔して「はいっ!」と大きく頷いた。と、そのとき──。
「ちょっと、ちょっと!何ふたりで、まったりしてるんです!稚日女尊様、俺のこと忘れてませんか?!」
突如現れたのは、信さんと同じ着物を着た男。白髪に、もふもふの白い尻尾は信さんと同じだけれど、彼の方がやや穏やかそうな見た目……?もしや、このあやかしは。
「凪……」
と思っていると、案の定、彼がもう一人の神使である凪さんだった。




