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信さんはそこで言葉を区切ると、「ですが」と俯いた。


「……そんな貴女に、私たちは甘えすぎていたのかもしれません。思いを言葉にして伝えようとせず、言わずとも貴女は分かってくれるだろうと勝手に思い込んで、貴女様がどれだけ我々にとって大事な御方か、伝える努力を怠っていました」


信さんはそう言うと顔を上げ、稚日女尊様を見た。


「たとえ神力が衰えようとも、私にとって貴女は貴女です。(あるじ)がためにあるのが、我ら神使。……これまでも、これからもずっと、私と凪だけは貴女の側を決して離れたりいたしません。どんな貴女でも、その想いは変わりません」


信さんはそう言って、稚日女尊様の後ろにそっと近づいた。小さく震える肩。それを見た信さんの顔が切なく歪み、彼はその場に跪いた。


「……稚日女尊様、どうか我らの元へお帰りください」


頭を下げ、そう請うた信さん。けれど、稚日女尊様はそれでも彼の方を見ようとしなかった。


言葉にすることの大切さ。それは誰もが感じながらも、ついなおざりになってしまうものなのかもしれない。


頭を下げたままの信さんを見て、私は稚日女尊様の側にそっと歩み寄った。


「……稚日女尊様」


近くで見る稚日女尊様を見ると、彼女は涙を堪えるように唇を噛みしめていた。信さんと同じように切なく歪んだ横顔に、私はああ、そうかと納得した。きっと、思いを言葉にできなかったのは、稚日女尊様も同じだったのだ。


「……今日は貴女に、こちらを召し上がっていただきたくてお呼びしたんです」


そうして私が差し出したのは、一切れのチーズケーキ。稚日女尊様はそっと視線をケーキに向けると、首を傾げた。

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